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第60話

自宅に走って帰宅し、指輪を入れてしまい込んでいた入れ物から指輪を取り出した。 2年振りに見た指輪は、美しい真っ青のサファイアの筈が、宝石の真ん中が赤黒い血の色に染まっている。 それは、シルヴァが生命の危機にまで及ぶ危険な状態である事を知らせていた。 指輪を握り締め (指輪よ、俺に力を!俺をシルヴァの元へ……) そう強く念じても、指輪が応えない。 「何で?頼む、シルヴァを助けたいんだ!応えてくれ!!」 必死に叫んでも、ユラユラと真ん中の赤黒い色が揺れているだけ。 「あの世界に帰る為の切り札は、お前だけなんだよ!」 指輪にどんなに祈っても、語りかけても全く応えない。指輪だけが、シルヴァと俺を繋いでいる唯一の媒体なのに!! 「俺だけじゃ……帰れないのかよ……。折角、思い出したのに!!」 指輪を握り締めて崩れ落ちた時 「指輪の他に、もう一つ。入口の鍵になる物があります。それを見つけ出さないと、あの世界には帰れません」 背後からエリザの声がした。 驚いて振り向くと 「記憶の封印を、ご自身で解かれたのですね」 悲しそうに微笑むエリザの顔が、あいつの顔と重なる。 「シルヴァは、相当解いて欲しく無かったらしいな。解くのに二年も掛かっちまったよ」 苦笑いを浮かべた俺に、エリザは悲しそうな顔のまま 「戻られても、多朗の知っている世界とは違いますよ」 そう言われて 「だとしても、俺はアイツを必ず助け出す。例え協力者が居なくても……俺は一人でも助けに行く!そして今度こそ、シルヴァの手を二度と離さない」 右手を握り締めて答えた。 「二人が結ばれない運命だとしても……ですか?」 エリザの言葉に、俺は苦笑いをして 「運命だって?そんなもの、幾らだって変えてやる。宿命以外は、どんな人間だって変えられるんだよ」 そう答えた。 「宿命?運命とは違うのですか?」 「全然違うね。宿命というのは、俺が男でエリザが女って事。俺が地球という惑星に生まれて、神代多朗って名前で日本に生まれ、そしてこの肌の色と瞳の色で生きて行くって事だよ。それ以外は、全て変えられるんだ。運命なんてクソくらいだ!そんなモノ、ぶち壊してやる!」 俺は叫ぶと 「だから俺は、必ずあの世界に戻る鍵って奴を見つけ出して、勝手に俺の記憶を封印しやがったシルヴァを二、三発殴ってやる」 と続けた。 「二度と!二度とこの世界に戻れなくなってしまっても……ですか?」 エリザの言葉に、俺は小さく微笑み 「この世界で唯一心配だった両親も、母ちゃんは他界してるし、父ちゃんは再婚して幸せそうだしな。心残りはねぇよ」 と答えて 「お前は良いのか?エリザ。お前、すっげぇブラコンだっただろう?」 そう言うと、エリザは真っ赤な顔をして 「気付いていたのですか?」 と呟いた。 「だって俺、和久井を見てシルヴァを思い出したんだ。あいつ、シルヴァに面影が似てるよな。安心しろ、本人には言わないでいてやるから」 笑って言うと、エリザは小さく微笑み 「今は……ちゃんと奏叶が好きですよ。お兄様は、私の憧れでした。強くて優しい……大好きなお兄様を、多朗。どうか必ず助け出して下さい」 そう言ってエリザが俺の手を握り締めた。

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