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第61話 異世界への鍵

エリザの話では、俺が向こうの世界に戻るには2つの条件をclearしないとダメらしい。 ①シルヴァとの封印された記憶を自力で封印を解いて思い出す事 ②異世界への鍵を自力で見つけ出す事 これが出来ないと、二度とシルヴァには会えなくなるらしい。 俺、思うんだけどさ、何で神様ってヤツは試練が好きなんだ? 普通に会わせてくれれば良いのに。 そもそも、シルヴァから貰った指輪が、母さんの形見に記憶を変換されている事にも腹が立つ! しかもだ!多分、本当の俺の母さんは死んでいないのだろう……。 仏壇の母さんの写真、記憶を取り戻してから見ると全然知らない人だったし。 腹立たしく思いながらも、ミッションクリアしないと俺の中にあるシルヴァとの記憶は再び消され、永遠に甦ることは無いらしい。 もちろん、エリザに手助けしてもらうのもNGな訳だ。 だからエリザは、俺に記憶を取り戻して欲しくて俺の事を「お兄様」と呼び続けていたらしい。 彼女なりの俺に対するヒントだったんだろうな。 そしてあの日、切れて使えなくなったネックレスのチェーン部分を直した物を俺に手渡した。 俺はシルヴァと俺を結ぶ大切な指輪をネックレスのチェーンに通し、日に日に赤くなっていく指輪を握り締めた。 指輪を握り締め、シルヴァの無事を祈るしか無い。 その日から、鍵になる何かヒントはないのか?と、必死に考えていた。 日に日に赤黒い色が広がる指輪に、気持ちが焦れば焦る程、空回りして時間ばかりが過ぎて行く。 何も出来ないまま、ひと月が経過してしまった。 今では、サファイアの色がほとんど赤黒く染まっている。 (シルヴァ!俺が行くまで、頼むから生きていてくれ!!) 指輪を握り締め、祈る事しか出来ない自分が歯がゆかった。 焦る気持ちを落ち着かせる為に、深呼吸しながらシルヴァと過ごした日々を思い出す。 アイツのハチャメチャな行動や、初めて抱かれた日。しかも、龍神に身体を乗っ取られるなんて飛んでも無い経験をした事を思い出していた。 その時、ふとシルヴァが話してくれた始まりの話を思い出す。 世界の始まりは、ある者は宇宙の爆発により惑星が生まれて出来ると言いい、ある者は人間が作り上げた物語から世界が生まれると言う。 宇宙の爆発により生まれた惑星は、俺達が住んでいるこの地球の事だとしたら……。 人間が作り上げた物語から世界が生まれたのは、シルヴァ達の世界の事だろう。 という事はだ、『人間が作り上げた物語』って事はシルヴァ達の世界は……本の中にある!! そう閃いて、俺はその日の帰りに学校の図書館で片っ端からそれらしい本を探した。 翌日は地元の大きな本屋から図書館。 自宅ではモルカリから密林まで、ネット販売も視野に入れて探してみたが……見つからない。 一般販売されている本じゃないのか?と落ち込んだ時、ふと脳裏を過ぎった本がある。 ハッとして、最後の賭けとばかりにエリザの部屋のドアを叩いた。 「多朗?どうしたんですか?」 驚いた顔をするエリザの部屋には、和久井も居たが関係無い。 「エリザ!本、お前が大事にしている本を貸してくれ!」 叫んだ俺に、エリザが本棚から例のビロード生地で装丁された重厚そうな本を取り出した。 本のタイトルは『四匹の竜が作る国』 読める!前に見た時は、不思議な文字にしか見えなかった文字が読める! 「エリザ、それを貸してくれ!」 そう叫んだ俺に、エリザは本を抱き締めて 「多朗……。本の中で、あの日から時間は半年しか経過していません。でも、その半年であの世界は大変な事になっています。最初に貴方が降り立った、平和な世界では無くなっています。それでも行くのですか?もしかしたら、お兄様に会う前に殺されるかもしれないのですよ」 エリザの意思の強い瞳が、真っ直ぐ俺を見つめてそう問い掛けて来た。 俺が迷いもせず、そんなエリザに 「もちろん」 と返すとエリザは俺の手にそっと本を載せて 「ありがとう、多朗。お願い……必ず、必ずお兄様を助けて」 そう呟いた。 俺はエリザから本を受け取り、力強く頷いてからゆっくりと本を開いた。 本に記されたイラストには、荒廃した世界が描かれていて、あんなに美しかった世界がモノクロの世界になっている。 俺は悲しかったし、悔しかった……。 俺が呑気にこっちの世界でのほほんと暮らしている間に、シルヴァが泥だらけになって必死に守ろうとしていた世界がこんなに荒んでいたなんて……。 俺の雨男パワーを、素晴らしい力だと褒めてくれたシルヴァ。 雨の中、着る物も構わずに外に飛び出して喜んでいたっけ……。 (シルヴァ……待ってろよ!今、助けに行くから!)

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