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第64話
俺は湧き上がる歓声に、再び涙が込み上げて来た。
(シルヴァ……お前が撒いた種が今、ようやく実を結んだよ)
溢れる涙を拳を拭うと
『多朗、凄いよ!きみはやっぱり、僕の運命を変えてくれる勇者だ!』
両手を広げ、目がつぶれそうな程のキラッキラの笑顔を浮かべているシルヴァが思い浮かんだ。
(シルヴァ……早くお前に会いたい。お前のその腕の中に抱き締められたい。だから、絶対に生きる事を諦めるなよ!)
赤黒く染まり行く指輪にキスをすると、揺らりと赤黒い色が揺れた。
(シルヴァ、シルヴァ!俺は帰って来たぞ。必ず助けに行くから、それまで頑張ってくれ!)
願いを込めて石に唇を当てると、ほんの少しだけサファイアの色が現れ始めた。
きっと、俺の指輪とシルヴァの指輪が呼応しているのだろう。
俺は指輪に向かって
「シルヴァ……愛してる。その腕で必ず、俺を抱き締めてくれ……」
そう囁いて、再び指輪の石にキスを落とした。
すると俺の言葉に反応するように、一瞬だけ真っ青なサファイアの色に輝いて元の赤黒い色へと戻って行く。
シルヴァの命に猶予が無いと察して、俺はサシャと俺の護衛になった男を伴い、みんなの士気が上がる中、夜遅くに西の果ての村へと馬を走らせた。(俺は乗馬が出来ないから、護衛の奴に乗せて貰うという屈辱!!)
西の果の村には、シルヴァと俺が作った井戸がある。
ルーファスに知られない場所に作った筈だから、シルヴァ奪還にきっと力になってくれる筈だ。
人数は少ないより、1人でも多い方が良い。
馬を走らせて西の果てに向かう間も、変わり果てた世界に涙が込み上げてきた。
エリザは、あの日から半年だと言っていた。
たった半年で、こんなにも変わり果ててしまっているなんて……。
土は乾き、草木があちこちで枯れている。
その姿はまるで、砂漠のようだった。
西の果ての村に到着すると、既に人っ子一人居ないゴーストタウンになり果てていた。
変わり果てた村を見て、サシャが俺の肩を抱き
「多朗、そんなに肩を落とすな……」
って慰めてくれた。
でも、一縷の望みがまだ残っている!
俺は馬を連れて二人に着いて来るように言うと、死んだ森の中を入って行く。
(大丈夫だ。絶対に、俺達の井戸がみんなを守ってくれている)
不安で押し潰されそうになってしまい、思わず両手を握り締めていると、俺の護衛になった奴が俺の手を握り締めた。
驚いて顔を見上げると
「大丈夫だ。あんたとシルヴァ王子が作った井戸なんだろう?みんなを守ってるさ」
無愛想に言われて、何だか逆にホッとしてしまった。枯れ果てた森を歩くこと30分。
枯れ果てた木と蔦が覆い、死んだ森に見えるその場所の先に足を踏み入れた。
大きな洞窟を抜けた先にあるその場所には、緑に溢れた人家のある集落が出来上がっていた。
「こんな森の奥に……集落が……」
サシャが驚いた声が上げたその時だった。
弓矢が放たれ、物凄い勢いでこちらに飛んで来た。
俺は慌てて風を呼び、弓矢を別の場所へ次々と落として行く。
そんな俺の姿に
「多朗……お前、いつの間に?」
って、サシャが逆に腰を抜かしている
俺はそんなサシャに苦笑いを浮かべると
「さぁ?でも、頭に浮かぶんだ。こうすれば、大丈夫だって」
そう答えていると
「その声にその髪と肌の色は、多朗?多朗じゃないか!!」
弓矢を構えていた一人が、慌てて叫んだ。
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