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第69話

「シルヴァ、取り敢えずみんなが待っている。一緒に行こう」 そう言って手を引っ張ると、シルヴァが視線を湖の向こう側に向けた。 「でも、俺が逃げ出したのを知ったら……」 そう呟き掛けたシルヴァに 『シルヴァ、案ずるな。あの部屋にはお前がエイダンの姿でベットに座っている幻影を残してある。今まで通り、誰か近寄れば炎を撒き散らすからバレる事はあるまい』 湖からディランがそう話しかけた。 するとシルヴァは悲しそうに小さく微笑み 「お前にも心配を掛けたな、ディラン」 と答えると 『そんな事より、お前はさっさと力を取り戻せ。悠長にお前の体力が自然に回復するのを待つ時間などないぞ』 そう言って、ディランはゆっくりと湖の中へと戻っていた。 思えば、この時にシルヴァの悲しそうな笑みに気付いてあげられれば良かった。 俺はシルヴァを奪還した事に喜んでばかりで、シルヴァがあの部屋で半年間、何をされて何故大人しく捕まっていたのかを考えもしなかった。 ずっとモブでヘタレだと思っていた自分が、シルヴァを救い出した事で浮かれ過ぎていたんだろう。シルヴァが何故、あんな姿になっていたのか?何故、完全に心を閉ざしていたのか? みんなにシルヴァを会わせる前に、聞いて上げれば良かったと、俺はこの後に後悔する事になる。 俺はシルヴァを連れて、シルヴァ奪還をサシャや村のみんなに報告した。 これから助けに行く筈の人物が、呆気なく目の前に現れてみんな拍子抜けした顔をしていたっけ。 サシャに至っては、シルヴァに抱き着いて男泣きし始めた位だ。 そんなサシャを、シルヴァは優しくそっと背中を撫でて 「心配を掛けて済まなかった」 と、悲しそうに微笑んだ。 俺は仲間たちに、シルヴァ奪還から城に捕らえられているという土の竜神を助けに行くことを伝えた。すると他の人達が体勢を整えて、シルヴァに王位を戻そうと言い出したのだ。 でも、当のシルヴァは何処か浮かない顔をしていて、俺は疲れているのかな?位にしか考えていなかった。 そんな俺達の久しぶりの再会に、何故か周りが気を遣ってくれて、俺とシルヴァは龍神の池にある神社に寝床を用意され、みんなの住居とはかなり離れた場所で二人きりさせられてしまう。 お清めの儀式を終えて、俺とシルヴァは寝室に二人きり。 どうやら神様の器である俺達の行為は、ただの性行為とは意味合いが違うらしい。 特に俺は、土と風の竜神様を腹ん中に宿さなきゃならない訳だ。 まぁ、他の人からしたら、神事になっちゃうんだろうなぁ~というのは分かっていても、「さぁ!これからヤリまくりますよ!」と公言しているようで恥ずかしい。

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