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第106話

「デーヴィド、亜蘭、待たせたね」 ゆっくりとドアが開き、父様が僕達を中に招き入れてくれた。 「デーヴィド、亜蘭」 僕達の姿を見ると、母様は満面の笑みを浮かべて両手を広げてくれた。 まだベッドに横になっている母様に抱き着くと 「昨日は二人だけにして、ごめんな。寂しくなかったか?」 僕とデーヴィドを抱き締めると、母様が僕達に聞いて来た。 そして母様のベッドの横にある小さなベビーベッドに、僕達の妹、エリザが眠っていた。 僕とデーヴィドは母様に 「エリザを触っても良いですか?」 と聞いて、許可を頂いてからエリザの眠るベッドに移動した。 「わぁ!!」 ベビーベッドに眠る可愛い赤ちゃんを見て、デーヴィドと僕は顔を見合わせて笑顔になる。 「可愛いなぁ~」 そっとほっぺに触ると、温かくて柔らかい。 「エリザ、兄様だよ」 デーヴィドも、そっとエリザの小さな手に触れると、エリザの手がデーヴィドの指を掴んだ。 「父様!母様!エリザが僕の指を掴んでくれましたよ」 嬉しそうに叫んだデーヴィドの声に、エリザが驚いて起きてしまう。 「ふぇ……ぇ……」 と泣き出すと、父様がエリザを抱き上げてあやし始めた。 すると、ぐずっていたエリザが大人しくなって、再び眠りについていく。 「父様、凄い!」 小さな声で叫ぶと 「デーヴィドや亜蘭も、こうやって大きくなったんだよ」 と母様が微笑んだ。 父様がそっとベビーベッドにエリザを寝かせると 「もう少し大きくなったら、二人もエリザの面倒を見てくれるか?」 そう言って、僕達の頭を優しく撫でて微笑んだ。 この時、僕とデーヴィドは、この可愛い妹を守り抜こうと決めたんだ。 デーヴィドと顔を見合わせ微笑みながら、僕達は妹のエリザのプニプニに頬や小さな手に再び触れる。 「シルヴァ……わざわざ言わなくなって、二人はエリザの優しくて強いナイトになってくれるよ」 母様の言葉に、僕達は気恥しくてくすぐったい気持ちになったんだ。  月日は穏やかに流れ、僕達は16歳になった。 エリザは近隣の国にも名前が知れ渡る程に美しい少女に育っていて、婚約の申し出が既に殺到しているらしい。 そして……デーヴィドとアイシャは、すっかり仲睦まじい恋人関係になっていた。 運命の番というのは不思議なもので、幼い頃は僕とデーヴィドへの接し方が変わらなかったアイシャも、年齢を重ねて男女を意識する頃には、デーヴィドへ向ける眼差しが熱を帯びて行った。 元々、アイシャが大好きだった僕とデーヴィドだけど、僕の大好きは家族への大好きと同じ大好きだけど、デーヴィドはアイシャを父様が母様を好きなのと同じ好きみたいだった。 僕はというと、未だに恋とか愛とかが全く分からない。 未だに婚約者もいない僕に、母様は 「焦らなくて良い。俺だって、父様が初恋だったんだ。父様と出会う16歳まで、恋とか愛とか全く分からなかったよ」 と言って頭を優しく撫でてくれた。 それを聞いていた父様が喜んで 「多朗!!」 と抱きつこうとすると、母様は素早く避けて 「子供達の前で何するんだよ!!」 そう言って父様の顔面をグーで殴った。 「多朗……痛い……」 殴られた頬を押さえながら、それでも嬉しそうにしている父様に呆れた視線を向けていると 「ふふふ……父様は、本当に母様が大好きなんだな」 って、デーヴィドが穏やかな顔で笑っている。 こんな時、僕とデーヴィドは双子なのに、差を付けられた気分になる。

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