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第105話~新章~

『おんぎゃ~!』 温かい春の日に、王宮に元気な女の子の赤ちゃんの泣き声が響いた。 出産する為に、母様と父様。婆様以外は入る事を許されない部屋のドアの前で、僕と双子の兄、デーヴィドは顔を見合わせて微笑んだ。 僕は土の龍神の守護を受けているこの国の第二王子、亜蘭。 僕の両親は、見ているこっちが恥ずかしくなる程に仲が良い。 母様への愛情表現を惜しみなくする父様と、そん父様を冷たくあしらう母様。 父様曰く、母様は『ツン』で『デレ』な恥ずかしがり屋さんなんだそうだ。 確かに、僕等が寝ていると思って油断していた母様が、父様と仲良くしているのを何度か偶然目にした事がある。 その度、母様は父様を長椅子から蹴り落としているんだよね。(今更、別に隠さなくても……とは思うけど) でも父様は、そんな母様が愛おしいんだそうだ。 僕にはまだ分からない感情だ。 そんな『ツン』で『デレ』な母様も、僕達には惜しみなく愛情を注いでくれる。 いつでもハグをしてくれて、大好きのキスを頬にたくさんしてくれる。 本来、王家は乳母が子育てをするのだが、母様はご自身の手で僕達を育てたいとおっしゃり、乳母には手の回らない部分の補佐をお願いして僕等を育ててくれた。 だから僕とデーヴィドは、父様と母様の深い愛情で育まれて来た。 そして今日、ついに待望の赤ちゃんが産まれたのだ。僕達の妹、エリザだ。 僕達、龍神の保護を受けた王家の人間には、予知能力というものが与えられる。 父様も、婆様の予言だけでは無く、母様と出会う事を幼い頃から予知していたんだとか。 そして今日、僕達の妹になったエリザの事は、母様のお腹にエリザが宿った段階で僕達には名前も未来の姿も見えたんだ。 でも、やっぱり僕以外の兄妹の髪の毛がブロンズで、僕だけが母様似の焦げ茶色の髪の毛なのが寂しい。 母様も、母様似で産まれた僕を物凄く不憫がるので、そんなに嫌いではないこの髪の毛の色が、いつしかコンプレックスになっていた。 でもね、そんな僕の焦げ茶色の髪の毛を、アイシャだけは褒めてくれるんだ。 この国で焦げ茶色の髪は、僕と母様だけだって。 母様は、この国の救世主で国母様なんだそうだ。 そんな母様に似ているのは自慢なのだと、髪の毛の色で落ち込む度にアイシャが話してくれる。 僕はそんなアイシャが大好きだけど、アイシャはデーヴィドの婚約者なんだ。 それは幼い頃から決まっていて、二人は運命の番なんだって。 この国には、王家に跡取りが生まれると、本来ならば王家にしか生まれない筈の濃い瞳の色を持った子供が生まれる。 その子は、爵位に拘って婚姻すると血が濃くなってしまうのを防ぐ為に、神が特殊な能力を持たせて平民の子としてこの世に誕生させるのだとか。 アイシャは癒し魔法が使える。 アイシャの手は、どんな傷も怪我も治してしまうのだ。 そんなアイシャは、デーヴィドと同じエメラルドの瞳で産まれた。 それは、アイシャがデーヴィドの番だと知らせているのと同じなのだ。 だから、どんなにアイシャが大好きでも、アイシャはデーヴィドと結ばれる運命なのだ。

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