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「好きなんだ」 その一言がすべてだった.。 ・・・その言葉があればもう、何もいらないよ・・・ 沖縄まで押しかけてきた隼人クンから 大きくてつぶらな瞳でじっと見つめられたまま 何度も真剣に「好きだ」と想いを告げられた。 彼女がいた事も、別れた事も・・・ 全部話してくれた。 隼人クンの彼女から向けられた憎しみと、酷い言葉の数々で 俺は・・・ 自分で思うより、予想以上に傷付いて落ち込んでしまっていたんだ。 自分が悪いって分かっていても、消せない痛み・・・。 隼人クンからも裏切られたって感じてたけど それは・・・ 俺が隼人クンを信じてたからだって 宗太郎に言われたっけ。 「岬・・・  他人を信じるって・・・スゴい事なんだよ?  だから、裏切られたって思うより  好きな人を信じることが出来た自分を誉めてあげようよ?」 宗太郎の一言にどれだけ救われて来ただろう。 彼が居てくれなかった、ホント・・・ どん底まで落ち込んで這い上がれなかったかも知れない。 隼人クンが此処へ来たのだって 宗太郎の後押しがあったからだって聞いた。 宗太郎が 「岬を支えてあげてよ・・・もう泣かせないで・・・」 って言ってたらしい。 本当、どこまでお節介なんだか・・・。 「俺のせいで泣かせて・・・ごめん・・・」 「不安にさせてごめん・・・」 隼人クンの言葉の端々に繰り返されるたくさんの 「ごめん」の言葉・・・ それは・・・ 本当は俺の台詞なんだよ? 何ひとつ言えないまま・・・ 何ひとつ言わせないまま・・・ 曖昧な関係を望んで、続けてきたのは俺のほうなのに 隼人クンが、ずっと胸の中に溜め込んだまま 気持ちを抱え込んで悩んでいたなんて知らなかったんだ。 その、抑えていた想いのたけを吐き出し 激しい情熱を剥き出しにして 熱のこもった瞳で射抜かれ キツく抱きしめられたら・・・ もう・・・ 駄目だった。 完全に俺の負け・・・。 隼人クンの事が、好きで好きで堪らないのに 伝わらないように、我慢してた。 本気で好きだから、困らせたくなかったんだ。 でも・・・ それは間違いだった事にやっと気付いた。 好きになるのが怖いとか 好きになったら迷惑なんじゃないかとか ・・・そんな弱気な、女々しい気持ちは 「好きだ」っていう素直な一言で こんなに簡単に消え失せていくんだって・・・ やっと分かったんだ。 好きだから困らせても許されるし 好きだから抑えきれない気持ちを吐き出しても良かったんだ。 頑なだった心が、情けないくらいに解けていく・ 重ねられた唇から・・・ 抱きしめられた身体から・・・ 伝わってくる、隼人クンの想い。 唇が勝手に動いて 「俺も・・・」って、気持ちが声になってた。 我慢してた分、緩んでしまった想いは止めらんなくて。 でも・・・ 俺は馬鹿だから 何から伝えればいいのか分からなくて ただただ、零れてしまう涙で隼人クンの胸を濡らすことしか出来ない。 「もう、絶対に岬くんを離さない」 って言われて、嬉しくて・・・ 身体が震えて・・・ ・・・胸がぐっと熱くなって・・・ 「俺も隼人クンから離れない」って、言いたいのに 唇からは嗚咽しか出て来なくて・・・ でも隼人クンは、そんな俺を抱きしめながら 優しく、愛してくれた。 身体を繋いでも、心のどっかで引っかかってたわだかまりみたいなものが 溶けていくみたいだった。 カーテン越しに感じる陽の光で目が覚めると 隣には大の字になって布団から半分身体が飛び出したまま眠ってる 隼人クンがいる。 夢・・・じゃ、ないよな・・・? そう思って、腕にそっと触れてみた。 ・・・指先に隼人クンの温もりが伝わってくる・・・ っていうか、暑いよ・・・ くっ付いて寝ていたから、首筋辺りに寝汗をかいてて。 汗でベタベタする身体も 肌に残る、隼人クンの熱くて固い指の感触も 気怠い感覚さえ、何だか妙に可笑しくて 思わずクスッと笑いが込み上げる。 昨日までは、一人ぼっちだったのに・・・ 今朝は、隣で寝ている人が居て 寝息が聞こえてる。 ・・・嬉しい・・・ ひとりじゃないって事が、こんなに嬉しくて 幸せに思えるなんて・・・ 笑いたいのに、また・・・ 涙が零れそうになって、それすら可笑しくて・・・ ぐぅぐぅと、呑気に寝ている隼人クンに 「・・・好きだよ・・・  起きろよ、ば~か」 って、小さく憎まれ口を叩いたら フフフッ・・・って、鼻で笑われた。 「え・・・?起きてたのかよ?」 恥ずかしくて、あたふたしてたら 「だって、あっちぃんだもん」 って、細く目を開けて 悪戯っ子みたいに笑いながら見つめられた。 その、熱のこもった意味深な視線は とても朝の眩しさの中で受け止められるようなモノじゃなくて 慌てて目を逸らし 「朝飯・・・用意してくるから布団畳んでおいてくれる?」 そう言って、台所へ逃げ込んだ。 流しで、バシャバシャと顔を洗って ふうっ・・・と深呼吸するとやっと冷静になれた。 和室で、バタバタと布団を片付けてる隼人クンに・・・ 沖縄まで俺を追いかけて、想いを伝えに来てくれた隼人クンに・・・ 俺も言わなきゃいけない事があるのは分かってる。 でも、本音を言えば 心構えなんて何ひとつしてなかったから 未だに諦めのつかない、挫折した夢の話や 亡くなった母ちゃんの話をするのは、何となく躊躇いがあった。 俺の事を知って欲しいけど ・・・それは、俺の弱さや情けなさ 見栄や嫉妬や、隼人クンを独占したいっていう薄暗い欲望・・・ それらを全部さらけ出すって事だから、やっぱり躊躇しちまう。 何から・・・ どんな言葉で伝えたらいいんだろう? どんなに好きだって・・・ すべてを分かり合うのは無理だろ? やっぱり・・・俺、怖いかも・・・ ギュッと唇を噛んで俯いた。 「岬くん?どうしたの、難しい顔して・・・」 優しい声に顔を上げると 「朝飯は~?」って笑う隼人クンに顔を覗き込むように近づけられた。 「うわっ、近いよ!  ・・・馬鹿っ!」 「ふふん・・・おはようのキス」 さらに近づく気配に ギュッと目を瞑るとチュッと鼻先に唇が触れる。 唇にキスされると思っていたのに・・・ 恐る恐る目を開けば クスクスと可笑しそうに笑いを堪えてる隼人クンが居た。 「ば、ばかっじゃね~の」 こっちは、悩んでんのに、からかいやがって・・・ ムッとして睨み付けると 腕が伸びてきて、ふわりと抱きしめられた。 「・・・焦んなくていいよ・・・  ゆっくり・・・ゆっくり進もう?  もう二度と、岬くんを離さないから・・・  時間はたっぷりあるしね・・・」 「・・・うん・・・」 「まずは、朝ご飯食べようよ。  美味しそうなパンがチラチラ見えてるんだけどなぁ」 何も言ってないのに・・・ 隼人クンには、何で分かってしまうんだろ? 「・・・俺さぁ・・・  何から言ったらいいのか、分からねぇんだ・・・  隼人クンの事は、好きだ。  でも・・・全部さらけ出すのは・・・正直、怖いよ・・・」 「うん・・・分かってる。  ・・・それでいいよ・・・  急ぐ必要なんてないし、全部なんて求めてない。  時間をかけてさ・・・少しずつ分かり合って行こうよ」 隼人クンは俺の弱さも・・・ 許してくれる・・ 「・・・ありがとう・・・」 恥ずかしくて、照れくさくて・・・ 隼人クンの胸に顔をうずめたまま、呟くと 抱きしめられた腕に力がこもって 「・・・やべぇ・・・俺、嬉しくて泣きそうだわ」 そう言って、隼人クンに顎を持ち上げられて 確かめ合うようにキスを交わす。 パンを焼いて、コーヒーを煎れている間 少しだけ、夢の話をした。 「・・・俺さぁ・・・ 子供の時、パン屋さんになりたかったんだ」 「・・・へぇ・・・寝坊助なのに?」 「うるせぇな!  おまえ、一言よけいなんだよ・・・」 隼人クンが大声を上げて笑ってたら 「楽しそうだねぇ」 と、婆ちゃんが茹でたてのトウモロコシを持って、縁側へ顔を出した。 俺、すげぇ幸せだ・・・。 悩みが消えた訳じゃないし 言えないままの事が、たくさんある。 それでも、俺は 「離さない」って言ってくれた隼人クンを信じてるし 弱さを認めてくれた隼人クンに甘えてる。 隼人クンに支えられて、強くなれるって感じてるんだ。 好きな人が、腕を伸ばせばすぐ隣にいるってだけで・・・ 好きな人の笑顔がそばにあるっていうだけで・・・ 人は強くなれるのかも知れない。 隼人クン・・・ 「愛してるよ」 婆ちゃんと楽しそうに談笑する背中に向かって 俺は、一番言いたかった言葉を口にした。 俺の声は、多分・・・ 聞こえてるだろ・・・? だって、隼人クンの耳が真っ赤だから。 end

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