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第7話

好きだからこそわからなくなる。 好きだからこそ言えないこともあった。 好きだからこそどうしても譲れないこともあって。 本当は誰よりもあなたに優しくありたいのに あなたを許せない自分もいたり・・・。 憎んでしまうことも 疑ってしまうことも 困らせてしまうことも 忘れようとしまうのも 我慢してしまうのも 抑えきれない感情が溢れてしまうのも 訳もなく涙が零れてしまうのも ・・・全ては君を好きだからだ・・・ 言わなくても伝わるなんて嘘だ。 だから・・・ 俺のことでもう泣かないで。 壊れてしまうからこそ大切にできるし 裏切られたって感じてくれたなら それだけ俺のことを信じてくれてたってことだろ? 何もかも分かり合えるはずなんて無い。 だって・・・ 最初は他人同士から始まるんだ、恋は・・・。 だからこそ・・・ 本当に大切なことだけ分かり合えたらいいと俺は思う。 自宅に戻り、俺は直ぐにPCを開き那覇行きのチケットを予約する。 出来るなら空席があれば最終の便をと思ったが 8月最後の週と重なっていてチケットが取れず・・・ それでも何とか明日の朝一の便を予約でき ホッと胸を撫で下ろした。 このもどかしさをどうすればいい? 心は既に彼の元へと向かっている。 なのに、身体はこの場に留まって・・・ 心では彼を抱きしめていても この腕は彼を抱きしめられないもどかしさ。 早く・・・ 岬くん、あなたに「好きだ」そう伝えて抱きしめたいよ。 そして・・・ もう、決してあなたを放さない。 俺はどうにか気持ちを落ち着け とにかく那覇に到着したら直ぐに彼の引越し先に迎えるよう レンタカーの手配も済ませた。 翌日、少しの手荷物だけで沖縄に向かった。 那覇空港に降り立てば・・・ 東京とは違うチリチリと肌を射す太陽のあまりの眩しさに目を細めてしまう。 それでも気持ちが急いて 手配してあったレンタカーに乗り込めば 装備してあるナビに城川くんから教えてもらった住所を入力し終わると サングラスもかけずアクセルを踏み込んだ。 一時間ほどだろうか・・・? 海沿いに北へと慣れない島道を走る。 時折、信号にひっかかりブレーキを踏むと 俺は海に視線をやる。 そこにはあの時に見た絵とよく似た 何処までも青く澄み渡る海。 そして脳裏に浮かぶあの・・・ 憂いを含んだ青年の横顔。 それが・・・ 岬くんの横顔と重なって胸が痛む。 早く・・・早く、岬くん・・・あなたに会いたい。 信号が変わると俺はまた、アクセルを踏み込んだ。 ナビが示す場所に到着したのは昼過ぎ・・・ 目の前には沖縄特有の牝瓦と牡瓦を重ねあわせて漆喰で塗り固めた屋根に 魔除けのシーサー。 ここで・・・ 岬くん、あなたはひとり、何を想い暮らしているの? また・・・ 絵に描かれていた青年の横顔が浮かび グッと胸が抉られた。 玄関だろうか・・・? 敷地に入る為の門は開かれており、俺は一歩踏み出す。 すると、小さな道を挟んだ向かいの畑から声をかけられ振り返れば トウモロコシ畑からひょっこりと顔出すおばあさん。 「お客さんかい?  岬くんや居ねーんさー」 ニコニコ笑ってこちらに向かってきたおばあさんは 「東京からかい?  いちゃんだ(わざわざ)、うんぐとぅとこ(こんなとこ)までくるなんて・・・  岬くんぬどぅし(友達)かい?」 そう言って 「多分、ちゅいんかい(釣り)行ってるだろうから  わんぬやー(我が家)で待ってたらいいさー」 その独特の和やかな島言葉と優しい笑顔に 俺は甘えることにした。 岬くんの隣に住むのは 沖縄陶器(やちむん)を作る陶芸家の金城さん夫婦。 主人である三成さんの手伝いをしながら 須美子さんは畑でトウモロコシやゴーヤ、マンゴーやパパイヤなど 南国の果物を作ってるらしい。 岬くんが借りている家はこの夫妻の息子夫婦が以前 住んでいたそうだ。 初対面だと言うのに俺は この夫妻の孫みたいに思われてる岬くんの友人だと言うことで 「遠慮や無用さー」と遅めの昼食までご馳走になり 寛がさせてもらっていた。 ずっと運転していていたせいか 須美子さん手作りの美味い郷土料理で腹がいっぱになったせいか 縁側に腰をかけさせてもらっている内にうつらうつらとしていたみたいで 「あねー、岬くん帰ってきたさー」と須美子さんに起こされハッとする。 その顔を見て笑う須美子さんの優しい笑顔に 岬くんも少しは癒されてるんだろうか? そうなら・・・いいのに。 そんな事を考えながら 須美子さんの丸まった背中の後について行けば・・・ 俺の姿を見て驚きもせず、ただ冷たく俺を見る岬くんがいた。 それでも・・・ 流石に須美子さんがいる間は笑顔を見せて彼女と談笑していたが 彼女の丸まった背中を見送ると俺に振り返りもせず 「・・・何しに来たの?」 冷たい声。 抑揚のないその声に凹みそうになる心を何とか奮い立たせ 「・・・逢いたくて・・・  岬くんに言いたい事があって  伝えなきゃいけない事があって会いに来たんだよ」 そう告げると 「・・・俺は・・・聞きたくないし、言いたいことなんて何もないよ。  ・・・今夜は、もう仕方ないから泊まっていいけど明日、朝イチで帰って・・・」 また、心の通わない冷たい声。 それでも構わず、俺は言葉を続ける。 「嫌だ・・・やっと見つけたんだ・・・岬くんが、好きなんだ!  俺は、岬くんの事が出逢ったときから、好きなんだよ!  岬くん、俺は君のことが大好きなんだ!  ずっと、言えなくてごめん・・・」 ずっと・・・ 言えなかった、ずっと・・・ 言わないといけなかった言葉を岬くんに伝える。 俺からの言葉を受け取った岬くんがその場に座りこんでしまう。 その小さな、震える背中を俺は抱きしめ 「好きなんだ。  ずっと、好きだった。  彼女のこと、話さなくてごめん。  岬くんを傷つけたくなかったから話さなかった。  それが却って岬くんを苦しめてしまったんだよね。  ごめん・・・俺が馬鹿だったんだ。   彼女とは別れた。  婚約も・・・破棄した。  不安にさせてごめん。  俺なんかの為に辛い想いをさせてごめん。  言わなくたって伝わるなんて・・・嘘だよね。  そんな簡単な事に気づくのに時間がかかって・・・ごめん。  何も伝えずに、何もかも分かり合えるはずなんて無い・・・好きだ。  俺は・・・岬くんが好きなんだ」 そこまで一気に想いを言葉にすると俺は 岬くんをこちらに向かせ唇を重ねた。 腕の中でもがいて俺から逃れようとする岬くん。 その岬くんをきつく抱きしめ、触れ合った唇を深く重ねあわす。 もがいていた岬くんの力が抜けたのを確認してから俺は唇を離し もう一度今度はしっかりと岬くんの瞳を捉え 「岬くんが好きだ。  あなたがいない世界なんて、もう俺には考えられない」 その言葉を受け止めてくれたのだろうか 「俺も・・・」 そう言って泪で濡れた瞼を閉じた岬くんに俺は 「もう、絶対に岬くんを離さない」と誓いの言葉をたて誓いのキスをした。 それからは・・・ もつれ合うように互いの服を脱がせながら まだ真新しい井草の香りがする畳の上に岬くんを押し倒すと 「隼人クン・・・」 潤んだ瞳で俺を見上げて名を呼ぶ岬くん。 その瞳に、その声に我慢が出来なくなった俺は 荒々しく彼の唇にキスを落とすと 歯列を抉じ開け舌を滑り込ませ 彼の熱い舌を絡めとり吸い上げる。 それだけで、自身にも熱が込み上げてしまう。 それ程、俺は・・・岬くんを欲していた。 久しぶりだからとか、岬くんのカラダの事を考える余裕なんかなかった。 直ぐにでも岬くんの熱を感じたくて。 直ぐにでも岬くんと一つになりくて。 直ぐにでも二人で溶け合いたくて。 それは・・・ 岬くんも同じだったのか俺の無茶な行為を受け止めてくれる。 「んんっ・・・隼人ク、ン・・・・あぁ・・・もう、俺・・・」 吐息に混じった岬くんの言葉に俺は一気に昇りつめ 俺の想いの丈を最奥で受け止めた岬くんも同時に想いを吐き出した。

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