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もっと捕らえて 4
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「忘れ物ないか?シートベルトしろよ」
緋音が運転席に座りながら、自身もシートベルトを締めながら、珀英に問いかける。
珀英は、緋音と自分の荷物をトランクに入れてから、助手席に座り、言われた通りにシートベルトを締めながら、
「大丈夫です!」
と笑顔で元気に答えた。
今日は緋音の誕生日前日。
マネージャーの尽力(じんりょく)のおかげで、緋音は今日から3日間休みとなり、珀英と一緒に温泉旅行に行くことができる。
珀英が提案してきたのは、箱根の温泉旅館で、大きな大浴場もあるけど、部屋付きの露天風呂がある、そこそこいいお値段のする所だった。
箱根周辺の観光地にも行きたかったので、電車で行ってもレンタカーが必要になりそうだったから、なら最初から車で行こうと緋音が提案して、緋音の車で行くことになった。
本当は珀英としては、緋音にのんびりして欲しかったから、電車で行ってレンタカーでも良かったのだが、運転し慣れていない珀英の隣に座りたくない緋音が、自分の車で自身で運転することを譲らなかった。
運転することは好きだから、箱根くらいだったら苦にならないので、緋音はこうして珀英を隣に乗せて旅行に行けるだけでも、嬉しかった。
プライベートで旅行なんて何年ぶりだろう・・・。
少なくとも、珀英と付き合うようになってからは、プライベートの旅行なんて行っていないことに気が付く。
それを言ったら、珀英も緋音にべったりだから、仕事以外で遠出することなんかなかった。
二人とも、二人で行く旅行が初めてで、何だか気恥ずかしい感じがしつつも、嬉しくて楽しくて仕方なかった。
テンション高めの珀英は、箱根に向けて運転している緋音に、ずっと取り留めのない話しをしていて、緋音はその相手をしつつ慎重に車を走らせて、東名高速に乗る。
早めの台風が来ることもなく、空は青く高く澄んでいる。
夏特有の白い大きな雲が遠くに見える。
旅行に行く時は天気がいいだけで、何だか楽しくなってくるから不思議だ。
箱根まで90分かそこいらの時間だが、東京から離れて、二人で旅行に行くこの時間が、二人には初めてで新鮮で、とても愛おしい時間だった。
「緋音さんどこか行きたい所とかあります?」
珀英はど定番の旅行のガイドブックを広げながら、助手席でいつもより楽しそうな声色で話しかけてくる。
緋音はハンドルに手を添えるくらいで運転しながら、横目でちらっと珀英を見る。
本当に嬉しそうに楽しそうに、にこにこ笑っている珀英を見て、思わずくすりと笑う。
「ん・・・何処でもいいけど・・・」
「あ、じゃあ遊覧船とか乗ります?」
「悪い・・・オレ船は無理。酔うから」
「そうなんですか?!」
珀英が目を大きく開いて驚いているのを見て、また笑ってしまった。
珀英のテンションが高いのを、緋音のライブくらいでしか見たことがないので、何だか面白かった。
「たぶん三半規管が弱いんだろうな。飛行機と電車は平気だけど、バスも結構酔う。自分で運転してる時は大丈夫だけど」
「そうなんですね・・・じゃあしょうがないですね」
緋音の知らない一面を知れて、珀英は少し嬉しくなっていた。
今後緋音と移動する時は、船とバスは除外して計画を立てようと心に誓う。
珀英は手にしているガイドブックをぺらぺらめくって、ここはどうだ?あそこはどうだ?と緋音に聞く。
緋音が微苦笑を浮かべながら、全部に行きたいかそうでもないかを答えている内に、箱根まで半分くらいの所まで来た。
テンション高めに喋(しゃべ)り続けている珀英に、緋音は、
「次のSA(サービスエリア)寄るぞ」
緋音が高速道路の案内標識を見ながら珀英に声をかけた。
「あ、わかりました」
珀英は緋音のその言葉に答えると、少し反省する。
緋音にぶっ続けで運転させないで、ちゃんと休憩を入れてあげなきゃいけないのに、本当は珀英が気をつけなきゃいけないことなのに、そこまで気が回らなかったことを反省していた。
一緒に旅行行けるのが嬉しくて失敗した・・・ちゃんと緋音さんの体のことも考えなきゃ!
緋音は本当は箱根まで休憩なしで行っても良かったが、一回くらいトイレ休憩は入れておいたほうが良いだろうという、ただの思いつきだった。
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