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もっと捕らえて 15

珀英は大きく深呼吸を繰り返して、暴れ回る欲望を抑えつけて、緋音に微笑んだ。 「なんだ、残念です」 「バッカじゃねぇの」 「次の楽しみに取っておきますね」 「つ・・・次なんかない!」 緋音は顔を真っ赤にしながら、バスローブの腰紐を結んで体を隠すと、珀英の横を通って部屋へと戻って行く。 珀英は本当は風呂に入るつもりはなかったが、自分の中に湧き上がっている醜い欲望を抑えるために、浴衣を脱いで風呂に入った。 適温のお湯はとても気持ちがよくて、色々元気になりかけたところが、大人しく落ち着くのがわかった。 珀英は大きく深呼吸を繰り返して、完全に落ち着いたのを確認すると、風呂から出て浴衣を着て、緋音の待つ部屋へ戻った。 緋音は珀英が風呂に入っている間にさっさと着替えを済ませていた。 昨日と同じ黒いパンツを履いて、上はグレーのサマーセーターを着て、ベットに腰掛けてスマホをいじっていた。 珀英も浴衣からジーパンと黒いTシャツに着替えて、緋音の隣に座る。 緋音は隣に珀英が座ったことに気付きながらも、あえて無視してスマホをいじり続けた。 珀英は緋音のその真剣な白い整った顔を見つめながら、小ぶりな鼻と真っ赤な口唇を見つめて。 不意に緋音の華奢(きゃしゃ)な顎を、長い骨太な指で摘むと、自分の方へと引き寄せた。 「ちょ・・・」 慌てたように声を上げる緋音の口唇を、珀英は触れるだけのキスで塞いで、離れる時に一瞬だけ口唇を舐めた。 「お前な・・・」 「おはようのキスしてなかったんで」 珀英がくすくす笑いながら、もう一度緋音の柔らかい口唇を舐めた。 緋音は珀英のキスを受け入れながら、柳眉(りゅうび)を寄せた。 「しなくていい」 「しないと不機嫌になるじゃないですか」 「そうじゃなくて・・・」 緋音はスマホをベットに放ると、珀英の逞(たくま)しいがっちりした肩を掴んで、そのままベットへ押し倒した。 珀英は緋音が何をしたいのかわからないまま、緋音のしたいようにベットに寝転んであげた。 緋音は珀英の上に覆いかぶさるように、珀英の腰を挟むように膝立ちして、腕は首の横に置いて四つん這いになる。 その体勢でしばし、数瞬だけ見つめ合うと。 緋音の顔がそっ・・・と、珀英に近づいて行って。 珀英の少し厚めの温かい、甘い口唇に、ゆっくりと触れた。 少しだけ口唇が離れた瞬間。珀英が嬉しそうに微笑む。 「お誕生日、おめでとう御座います」 「・・・ありがとう」 珀英が愛おしそうに、愛おしそうに優しく、ゆっくりと、緋音の頬を撫ぜる。 「生まれてきてくれて・・・ありがとうございます・・・」 「うん・・・」 「オレと出会ってくれて、ありがとうございます」 「うん・・・」 珀英の大きな手が緋音の後頭部に回る。 強い力で、少しずつ、緋音の頭を引き寄せる。 緋音は抵抗せずに珀英に引き寄せられるまま、珀英の嬉しそうな笑顔に近づく。 口唇が触れる寸前。 緋音がポツリと呟(つぶや)いた。 「見つけてくれて、ありがとう」 思いがけない言葉に、絶対に二度と聞けない言葉に。 珀英は満面の笑顔になって。 緋音に口吻けた。 Fin

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