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もっと捕らえて 14
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翌朝。
目を覚ました珀英は、隣に緋音がいないことに気づいた。
いつもだったら珀英の腕を枕にして、緋音がすやすやと寝ているのに、今朝はその奇麗な清廉(せいれん)な寝顔が横になかった。
不審に思った珀英は慌てて起き上がり、緋音の姿を求めて部屋中を見渡した。
もしかして、昨夜犯りまくったから、怒って帰っちゃった・・・?
そんな不安が胸をよぎる。
隣の空いているベットにも、少し離れたところにある、昨夜緋音とお酒を飲んだグラスが乗ったままのテーブルにも、緋音はいない。
珀英はベットから下りて寝乱れた浴衣を直して、ベランダの方へと近づいた。
緋音が部屋風呂に入りたがっていたことを思い出したから。
窓からは山の向こうから上がった太陽の光がキラキラと射し込んでいて、天井から床までの大きなガラス窓に、緑豊な山々が悠々とはっきりと見えている。
ああ・・・夏だな・・・
暑がりな緋音のために冷房を付けっ放しで寝たので、部屋は涼しいけれども、外はきっと気温が上がって、セミが鳴いているだろう。
珀英が窓を開けると、案の定夏の空気がふわりと部屋に入ってきた。
都心と違って山の中なので、さほど蒸している感じはなく、心地の良い乾いた風だった。
これなら多少気温が上がっていても、命の危険を感じるほどではないだろう。
珀英はベランダに出て、乾いたすのこの上に素足で立つ。その感触も気持ちが良くて、珀英は何だか心の底から嬉しくなっていた。
嬉しくなった理由はもう一つ。
ベランダに出てわかったのが、緋音がやはり部屋風呂に入っていたから。
数メートル先の衝立(ついたて)の向こうに、緋音の気配を感じて、珀英はそのまま近寄って行くと、衝立の端からひょこっと顔を覗かせた。
檜の湯船の中に緋音の後頭部が見える。
少し長めの深い茶色の癖っ毛から、流れるような白い首、滑らかな曲線の肩が視界に入ってきて、珀英は息を飲んだ。
朝陽に照らされて、電灯の下で見るよりももっと、一際輝きを放っている白い肌に、眩暈(めまい)を憶える。
噛み付いて歯形を残したいとか、食いちぎって真っ赤な血が流れるのを見てみたいとか、そんな醜い劣情が湧き上がるのを必死で抑えて、珀英はそっと緋音に声をかける。
「おはようございます。ずいぶん早起きですね」
声をかけられて、珀英が起きていたことに全く気付いていなかった緋音は、びっくりして振り返った。
「あ・・・起きたのか。おはよう」
緋音の大きな薄茶の瞳が大きく見開かれた後に、ほっとしたように笑って細められる。
昨夜は深酒をしたせいと、激しいセックスのせいで何だか眠りが浅く、いつもなら絶対に起きない時間帯に目が覚めてしまって、緋音は仕方なく部屋風呂に入っていた。
隣で健やかに熟睡している珀英を起こすのも気が引けたので、一人でのんびりと朝風呂を楽しんでいたら、いきなり珀英に声をかけられてびっくりした。
珀英が嬉しそうに愛おしそうに自分を見ているので、緋音はほっと安心して肩の力を抜いて、珀英を見つめて微笑んだ。
自分の顔を見て安心する緋音のその変化に、珀英は気が遠くなるほど欲情した。
「朝風呂ですか?」
珀英は緋音に自身の劣情を悟られないように、見ればわかるどうでもいいことを口にした。
緋音は珀英のそんな心境を知らないので、珀英の問いに答える。
「昨夜は入れなかったから・・・お前も入れば?」
「え?!一緒に?!」
「バ・・・違う!!」
珀英と緋音が同時に顔を赤くする。
緋音はザバ・・・っと湯船から出て、衝立にかけておいたバスローブを羽織った。
「オレはもう出るから、お前入ればって意味だ!」
緋音の言葉を聞きながら、珀英は気絶しそうなのを堪えていた。
太陽の光の中で見た緋音の体は、真っ白でシミ一つなく、滑らかな鎖骨も、桜色の乳首も、細いウエストから流れる綺麗な曲線を描く腰と、スラリと伸びた美しい脚と、全部が奇麗で嫋(たお)やかで優美で。
剥製(はくせい)にしておきたいくらい美しいけれども、こうして生きて動いて呼吸している一瞬一瞬のほうが、美しいと、言葉にならないくらい愛おしいと、わかっているから。
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