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聖なる夜に……

 「……ねぇねぇ、翔ちゃ~ん。もっかいシたいな~?っていうか、今度は中だしさせてよ……駄目~?」  「ふざけんな、洋輔。調子に乗るなよ、馬鹿!」  さっきまで俺の下で、色を撒き散らしてはしたなく喘いでたくせに、シャワーを浴びて出てきたら、パソコンの画面に向かったまま俺を見ようともしないとかさぁ……。おまけに「調子に乗るなよ」だってさ。惚れてる相手に愛されたくて、でも愛されなくて……寂しくなって、濡れた瞳で誘ってくんのは、翔ちゃんのほうじゃん。一応、身体繋いでるんだしさぁ……もう少し可愛げがあってもいいよなぁ。俺はもっと、いちゃつきたいんだけど……翔ちゃんは甘えたりとか絶対してこないし、馬鹿並みに堅いし。今だって「話しかけるな!」ってオーラを纏ってるからなぁ……。  こっちを見向きもしない翔ちゃんの後ろ姿を見ながら、冷蔵庫の冷えたビールを取り出して、溜め息と一緒に喉に流し込んだ。火照った身体にアルコールが染み渡っていく。時計は、もう直ぐ午前0時を回ろうとしているから、そろそろ秀ちゃんが帰って来るだろう。そういえば……翔ちゃん、秀ちゃんとSEXした後は楽しそうに会話したりすんのかな?リビングでこんな風にパソコンを開いてるのは、秀ちゃんが帰ってくるのを待ってる為だってことくらい鈍い俺でも分かる。翔ちゃんは、秀ちゃんにとって自分が遊び相手でも構わないっていう、ある意味変人だからな……。  俺と秀ちゃんは、所謂ゲイが集まって親交を深める類のバーで知り合った。その日のうちに意気投合して、SEXしたら身体の相性も抜群ってやつで……。別々に暮らすのも面倒だからって二人で一緒に暮らしてたところへ、翔ちゃんが転がり込んできたっていうか……まぁ、ざっくり言うと……秀ちゃんがお持ち帰りして、そのまま居ついてるって感じかな。翔ちゃんは仕事が忙しい人で、殆ど寝るためだけに家に帰ってきて……朝も早く出て行っちゃう。だから、こうやってリビングに居るこ事態が珍しいんだ。  あっという間に飲み終わったビールの空き缶を、グシャっと潰して翔ちゃんの背中を見つめた。クリスマス・イブだからかな……?仕事を急いで切り上げて帰ってきたんだろう。しかも、いつもはビールしか入っていない冷蔵庫に、大きなクリスマスケーキの箱がドンと幅をきかせている。「食べよう!」って言ったら、秀くんが帰ってきてからだと当たり前のように素っ気ない返事まで返ってきたし……。  背中から放つ雰囲気は、声を掛けづらい感じだけど次いつヤレるか分からないし……何だかすご~く、意味もなくムカつくし……やっぱり無理やり襲っちゃおう!  後ろから無造作に抱きついて、Tシャツの背中の裾から手を忍ばせながら項に唇を這わせ、耳朶を噛んでやる。ふうっ……と息を吹きかけると翔ちゃんが身を捩って  「……ち、ちょっと、やめろよ!仕事中なんだ。邪魔すんなよ!」  うわ~結構マジで怒ってる!面白くない……。本当はもうすぐ秀ちゃんが帰ってくるから……俺とシてるとこ見られるのが嫌なんだって気付いてるんだけどね。……何かマジでムカついて、余計火がついちゃったよ。翔ちゃんの制止を聞こえない振りして、抱きついたまま手を下半身に伸ばしすと身を捩りながら抵抗してきた。  「……さっきシただろ。やめろって!」  「ヤダ。ふふふ……だって翔ちゃんのココ……正直じゃん?」  着古したスエットの伸びたゴムの隙間から、手を差し入れて勃ちあがり始めたソレに指を絡めて、上下に扱いてやると「んあ……っ……」って、甘ったるい吐息が翔ちゃんの赤くぽってりとした唇から漏れた。ほらね……まだ疼いてる身体が欲しがってるじゃん。  「優しくするから……」  そう言って、そのまま押し倒して夢中になってイチャイチャしてたら……  「面白そうなことしてんね……まぜて?」  菩薩みたいに穏やかな顔した秀ちゃんが、悪戯っ子みたいにフフって笑いながら俺と翔ちゃんを見下ろして上着を脱いでた。  「あっ、秀ちゃん……おかえりー」  イヒヒって笑って見上げると、秀ちゃんがニヤリと口角を上げる。まったく……こんな虫も殺さなそうな毒気のない綺麗な顔して……この人、やることなすことクズだからなぁ。  「まざりたいなぁ~」  「もちろん、いいよ~。秀ちゃん帰ってくんの、待ってたんだ~」  ニッコリ笑って答えると、翔ちゃんが荒い息をさせて逃げ出そうと身を捩りながら「最低だ……」って顔を両手で覆って低く呟いた。落ち込んで、青ざめた顔をしてる翔ちゃんの乱れた前髪を秀ちゃんは綺麗な指先で、そっと優しく撫でると「翔くん……好きだよ」って、驚くほど綺麗な笑顔で囁くんだもん。秀ちゃんは……やっぱり、タチが悪い大嘘つきだな。  「ちょ……い、や……だ……っ、んんっ……」  好きで、好きでたまらない秀くんにキスをされて、拒否する言葉まで……奪われた。  俺……何やってんだ?  秀くんに出会ったのは……新宿にあるとあるバー。所謂、ハッテン場ってとこだ。学生時代からなんとなく……自分はそっち側の人間だとは自覚していた。それでも……親の金で食わせてもらってる内は、自分の感情やら欲望やらを抑えてきた。それがせめてもの親孝行だと思って。  大学を卒業して、企業に就職し独り暮らしをする為の部屋を契約した日……俺は俺らしくある為に一歩踏み出した。そして……そこで出会ったのが秀くんだった。  慣れない場所で緊張してしまってダンスフロアに出ることも出来ず、カウンターでビールを煽っていた俺に声をかけて来てくれたのが……秀くんだった。緊張でガチガチに固まった俺と、そんな俺を見てクスッと笑った秀くんと交わした最初の会話……  「もしかして、初めて?」  「う、ん……」  「経験ないの?」  「……ない」  「なら……オレが教えてやるよ」  そう言うと秀くんは俺の手を強引にビールグラスから離し、トイレに連れ込んだ。そして……連れ込まれた狭くて汚い個室で俺は……秀くんに誘導されるまま……彼の中に突っ込んだ。俺に突っ込まれ「あっ……あぁ……んっ」と喘ぎながら  「もっと……いっぱいこの世界のこと教えてあげる。だからオレん家にこない?」  そんな魅力的な提案された俺はと言えば……初めて行為に夢中で。それが災いして 普段なら絶対に即答なんかしない俺なのに、彼の中があまり温かくて……ヌルついてるのに締りが良過ぎて、呑み込んだ俺を放さないと言わんばかりに襞を絡ませギュッと締めつけてくるから……思考よりも快感が勝ってしまった俺は、秀くんの細い腰を掴み更に奥へと打ちつけながら……気づけば「うん」と答えてしまっていた。けど……一戦終えて連れて行かれた場所には既に先客というか……同居人が居て。  「俺……洋輔。一応……これでも秀ちゃんの恋人って感じ?」  なんて……そんな風に挨拶されても俺はもう……店を出た後直ぐに賃貸業者に解約手続きの連絡をしてしまってたし、道を踏み外したその身体で……親のとこに戻るなんて選択肢は俺の中になくて。俺には秀くんの提案に乗るしか道は残されていなかった。  それからズルズルと……一歩前に踏み出した筈の足は秀くんに出会ったことで道を踏み外し、そのまま階段を転げ落ちるように、駄目だと気づいた頃にはもう……欲に塗れてどうしようもない人間になってて。そして……今に至る。  秀くんと洋輔に出会って俺は……色々と経験した。普通に生きてたら……今までの俺だったなら……絶対に知らずにいただろうことを経験した。いや……俺の意思に関係なく、二人によって経験させられた。その経験で得たこと……それは……俺はタチでなく、ネコだってことだった。なのに……秀くんは絶対に俺を抱いてくれない。なんとなくそんな感じの流れになって、もしかしたら今夜は……なんていい雰囲気になっても、フニャリとあの得意の笑顔でかわされて俺は……いっつも秀くんの中に突っ込まさせられて。俺は……突っ込まれたいのに。秀くんに突っ込まれて、身を震わせながら啼かされたいのに……絶対に秀くんは俺を抱いてはくれなかった。  そんな抱かれたいって言う欲望は、俺ん中で消化されず溜まってくばっかで……。その欲は秀くんじゃ解消されないから、自然と同居している洋輔に向けるしかなくって。俺は洋輔に……抱いてもらった。本当は秀くんで満たしてもらいたい熱を、あろうことか秀くんの彼である洋輔に満たしてもらっていたんだ。  「ふぁ……あっ……や、ん……やめ……あぁ」  角度を変え態とチュッとリップ音を立て唇を吸われる。ただ触れ合うだけのキスがどんどんと深くなり、それが息苦しくなってせめて拒否ぐらいは示したくて結んでいた唇を開けば、透かさず割り込んできた舌にびっくりして縮こまった舌を強引に絡め取られる。フェラするみたいに絡められた舌を吸われれば、心とは裏腹に俺の中心にズクンと走る痺れ。そうなると……俺はもう……その欲には勝てない。  洋輔から与えられうキスに追いつこうと必死で俺も舌を絡めていけば、フッと鼻先で笑われ恥ずかしくて顔に血がのぼる。きっと、こいつのことだ。キスをしてる時だって目、開けてんだろ?瞬時に真っ赤になった俺を見てるはず。  「翔ちゃんってば……可愛い!」  ほら……な。キスから開放されたと思ったら、俺が苦手だって分ってる言葉でこいつは攻めてきやがる。だから……俺は恥ずかしいけど瞑っていた瞼を開け言い返してやろうとすると、直ぐに今度は秀くんに唇を塞がれた。俺の顔はまた赤く染まる。それが恥ずかしくて……何より、目の前にある秀くんの瞳が欲に濡れていて、その瞳で俺をどうしようもなく煽ってくるから、それから逃げたくなって目を閉じようとすると  「翔くん、駄目……オレを見てて」  唇が触れ合ったまま、瞳を見つめられたまま、そう秀くんに言われて。好きで好きでたまらない秀くんの言葉に、俺は抵抗できるはずもなく……そのまま……目を開いたまま秀くんの唇を受け止めた。  それからは……二人から与えられる快感が気持ちよすぎたのか……それでトリップししてしまい、正直……あんまり……憶えてない。ハイになった洋輔が冷蔵庫からクリスマスケーキを持ってきて、俺の身体中に生クリームを塗りたくり、その身体中に塗られた生クリームを面白がって二人が舐めて……。更に調子にのった洋輔が飾りの苺を俺の蕾に押し当てたとこまではなんとなく……。あ、それから……洋輔のそそり勃ったペニスに「ローションの代わり……」とか何とか言って、秀くんが生クリーム塗りたくってたような……。えっと、それから……洋輔が俺の足を肩に担いで   「翔ちゃん……今日さぁ、俺の誕生日なんだよね。だから……ナマでいい?」  なんて……多分……、訊かれたと思う。もう……そん時は身体だけじゃなく、頭ん中までグジュグジュに蕩けてて疼く熱を開放したくて、熱を欲してヒクつくソコが疼いてたから頭を夢中で縦に振ってた。ガツガツと腰を進めてくる洋輔。それを見て欲情したのか気づけば……秀くんが……洋輔に……突っ込んでた。  耳にかかる洋輔の吐息に、何時もと明らかに違う声が混じり俺がびっくりして閉じていた瞼を開けば、洋輔の肩越しに悪戯に笑う秀くんが見えて。その悪戯の笑みを浮かべたまま秀くんが言う。  「翔くんにクリスマスプレゼントあげるね……。オレ、本当はどっちもいけんの」  今夜は12月24日。聖なる夜。イエスが誕生したと言われる聖なる夜……。なのに俺は……何一つ生み出さないこの地上で一番無意味な行為に酔って二人の唇や舌、指や爪で与えられる刺激で淫らに悶えてる。幾度も降り注がれた二人からのキスで、唇も胸の二つの粒も真っ赤に染めて。飲み込みきれなくなった唾液は唇からダラダラと零れれいた。受け止めきれないアナルからはドプドプと溢れ出す精液。堪えきれなくてペニスからポタポタと吐き出される透明な液体に混ざった精子の残骸。それはまるで……俺の中の大切なモノが流れ出してるみたいで。  俺……何やってんだ?そう思いながらも俺は……好きで好きでたまらない秀くんからも、俺の欲を満たしてくれる洋輔からもやっぱり……離れることが出来ない。  聖なる夜。二人の悪魔に酔った俺は……清らかな天使になんかなれるわけなく、どうしようもないクズな奴になるしかなかった。俺らしく……自由に生きる為に手にした羽は彼ら二人にもぎ取られ、俺も……彼らと同じ世界へと堕ちて行く。聖なるこの夜に……。                                                          終わり

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