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ストレスと酒とエロと……

 「あのさ……アレがあんなカタチしてるは如何してか知ってる?」  ああ……コイツ、酔ってんなぁ。  「挿れて出すだけならただの棒でいいじゃん?」  投げられた疑問詞に相槌もしてねぇのに嬉々として話してるし。ああ……やっぱコイツ、酔ってんなぁ。  毎年恒例の職場の忘年会が終わり、オレはオレで次の日から上海に旅行に行ってて……。元旦過ぎて四日になてやっと二人だけの夜。……っつっても、明日から仕事も始まるし、結婚してるコイツと一緒にいれんのはこの限られた時間の今夜だけ。まぁ、この年末年始の休暇はコイツは嫁さんの実家に行くし、それを思い出して一人さみしく部屋でTV見てんのが嫌で旅行に行ってたんだけど。  そのオレの旅行が気に食わなかったのか、それとも旅行中、コイツからの着信を拒否ってたのが気に食わなかった知らねぇけど、拗ねた様子で「久しぶりにどう?」って訊いてきたコイツの誘いを「部屋飲みならいいけど」と承諾した。ある意味……期待も込めて。  ところが、オレん家で飲み始めて一時間……ちびちびと肴の刺身をつつきながら、嫁さんの実家のある沖縄の土産に買ってきた泡盛を飲んでるオレの隣で「俺はこっちの方がいいや」と、かなりのピッチでビールをコイツは煽ってたから、当然、酔いも早いわけで。久しぶりに……の期待は無残にも期待のままで終わっかなぁと思ってたら……コレだ。  「雁ってさぁ……あの括れがあるから女性は快感が得られんだって」  へぇ……って今、オレ頷きそうになっちまったじゃん。けど……それ、オレに話す?オレ、こんなんでも一応その……お前とさ……。ここまで考えて、オレがそれ言えた義理か?となる。そうなると次は……何でコイツが絡んでるか?……だ。そんで、色々思考を巡らせて、あ……コイツ、溜まってんのか?とそこに思考が落ち着く。もちろん、そっちのじゃなく……ストレスの方な。だって普段のコイツなら絶対、オレに女の話なんか振ってこねぇもん。  それはオレ等の関係が歪だって分かってっから。それをオレが気にしてることも分かってっから。オレもコイツも、もういい歳の……口にしたかねぇけど、オッサンだ。それでもオレはまだいい。自由気ままに生きてきたし、これからだってそうだし。母ちゃんだって「あんたの好きにしたらいい」なんて言うような、暢気で気楽な家に生まれた。  けど……コイツはオレとは違う。社長の息子だ、だからことある毎に「オレなんかやめて、可愛い女の子探せよ」って言ってきた。普段喧嘩なんかしねぇのに、このことでは何度も言い合いにもなった。  —あなたは分かってない!  —おめぇこそ分かってねぇ!  ……ってな。そんで二年前にコイツは結婚した。それでも離れられなずに未だこんな関係を続けてるんだから……オレもかなりのバカだけど、コイツはそれ以上にバカで頑固だ。そんなコイツが女の……それもSEXの話題振ってくんのは、相当ストレス溜まってんだと思う。もしかしたら嫁さんの実家で「早く孫の顔を……」とか言われたんだろうか。  「俺さ……子供好きじゃないんだよなぁ」  オレに気を遣ってかどうかは知んねぇけど、結婚してからは会えばそればっか言ってたし、仕事だって態とオーバーワークして家にもあんま帰ってないみたいだったしな。世間体の為だけの結婚、そこに望まない子供までときたら……流石にコイツも、きちまったのかもしんない。オレがコイツと同じ仕事量だったら間違いなく、3日……いや、5日前には確実にキレてたと思う。ぼんやりと、そんなこと考えながら聞いてたら  「女性器ってさ……挿入されたのを抜かれる時、あの雁が襞を引っ掻くのが気持ちいいらしいよ」  なんとなく……この後の言葉が安易に想像つくオレもどうかと思うけど、期待してた分、勝手にカラダは疼きだしちまう。コイツにはオレより嫁さんとって、頭では理解してんのにカラダは……。やっぱ、オレ……コイツが好きなんだろうな。嫁さんを想像させる女の話してるコイツでも、欲しくってしかたねぇもん。だからさ……早く、続きの言葉言えって!そう思いを込めて見つめれば  「男のあなたもそうなのか、俺に教えてよ」  想像通りの言葉が返って来て、リビングに敷かれたラグの上に押し倒された。  「……していい?」  今更……何?って感じの質問。それも反則技みてぇな瞳でオレを見つめて。こう言う時のコイツはマジ、こっちが恥ずかしくなるくれぇ、愛しそうに見つめてくる。オレが「恥じぃからやめろ!」って何度言っても、これだけは変わんねぇまんま……。けどこん時だけ、オレ……嫁さんには悪ぃけど、オレとこにずっといろよ!嫁さんのとこなんか帰るなよ!って心底思っちまう。コイツを手放したくないって。  情けねぇよな……男の……しかも、いい歳したオッサンが。それをバレたくなくて、何時も視線を反らす。そしたら、如何勘違いすんのか知んねぇけど「あなた、可愛い」ってなるんだよな。  だから……今日も、ほら……「あなた、可愛い……」……な。そう言って、そっぽ向いたオレの頬にキスを落とす。それが……オレとコイツのSEX開始の合図だ。  着ていたTシャツを脱がされ、熱いくらいの指先が頬から首、鎖骨から露になった胸へと、何かを確認するように這い回る。その指の動きに吐息で答えれば「感じる?」そう言って、クスッと笑ったコイツから吐き出されたアルコールの甘い香りが混じった息が、鼻先を擽る。  オレだって飲んでたんだから同じ香りがしてるはずなのに、コイツの息は甘くて……。その甘い息はカラダだけじゃなく、思考までグズグズと蕩けさせ、胸の突起を指先で掠められるだけの行為に焦れったくなったオレは、普段なら口にしないような言葉まで、簡単に言っちまう。  「や、だ……もっと……ちゃんと触れ……よっ……」  言えば、熱い指先できつく摘まれ「んん……っ」と声が鼻にかかった、甘たるい声が洩れちまう。そこからはもう、コイツの独壇場で。オレはされるがまま、感じるだけ。  気づけばジーンズだって脱がされちまってて、うつ伏せにされ、腰だけ高く突き上げるような姿勢をとらされてた。左手で尻の割れ目を広げるように押さえられ、いきり勃つソレはまだかと待つヒクつく穴を曝け出される。なのに……熱い指先は背中を行ったり来たりするだけで。揺れる腰にやっと熱い指先が到達すると、その指を導くように収縮を繰り返しちまう蕾。  「欲しい?」  また、今更な質問をされるけど……この時には完全に思考は蕩けきってて、羞恥などなくなってしまってるオレは素直に答える。  「欲し……い……」  「ん……わかった」  そんだけのやりとりで、唾液で濡らされた指がグッと挿ってきて、また「んんっ……」って鼻にかかった甘たるい声が勝手に洩れちまう。したら「もっと気持ちよくしてあげる」とか訳のわかんねぇこと言うと、やっと挿入された指はぐるりと淵に円を描いただけで抜かれ、「あっ!ヤダ……」ってオレの声も虚しく、ヒクつくそこへの刺激がなくなり、ラグに押し付けていた顔を上げ、熱をもて余して潤んだ瞳で背後を見つめれば、泡盛の入ったグラスに口をつけるコイツの悪戯っ子の笑みを浮かべた顔が見えて。え?SEXすんじゃねぇのかよ?って瞬きもせず見てたら……一口、泡盛を含むとそのままその唇は曝け出されたままのヒクつく穴に宛がわれ、中へと流し込まれる液体。  「んん……っ、ヤッ……あちぃ……ヤダ、コレ……んっ」  「熱い?ここ、粘膜だからね……飲むより一気にくると思うよ」  そう甘い息と共に耳元で囁かれると、一気に熱がそこに溜まるのを感じ、再び熱い指を挿れられ、掻き回されればもう……オレのカラダも思考も完全に蕩けきっちまって、ひたすら後はコイツに強請るだけのだらしない輩に成り下がっちまった。  「……ぁ……あぁ……そこ、もっと……指……増やし、て…………もう、ヤッ……あぁんっ……早く……来て……っ……」  自分でも……何言ってんのかわかんねぇ。けど、唇は勝手に動いてもっと、もっとって快感を強請っちまう。三本に増えた指が、中を広げるような動きに変わって暫くすると  「じゃ、挿れてあげるから……抜く時、雁が引っかかって気持ちいいかちゃんと教えて……」  この期に及んで言って来やがる。好奇心旺盛なのか、こう言うことだけは、酔っててもきっちりしてるからマジ、コイツすげぇよなって思ってたら……ズンと奥まで一気に突かれ、背中が仰け反った。  一気に挿れられた塊を「どう?気持ちいい?」と訊きながら、ゆっくりと抜いていかれて。オレはと言えば、最初の衝撃で感じ入ってしまい、答えられずにいると、塊は先っぽだけを残して抜け出しちまって……。オレはもっと刺激が欲しくて、入り口だけ刺激して焦らすソレを呑み込みたくて、腰を押し付けるように動かそうとすると、尻を掴まれ抑止されちまった。そのコイツからのあまりの仕打ちに、身を捩じらせ「ヤダ……ヤダ……」と首を横に振れば「ダメ!ちゃんと答えてよ。じゃなきゃ、突いてあげない」なんて……まるでこんなの拷問宣告だ。だから従うしかなくて「言う、言うから……」って頭を縦に振れば「じゃ、今度はちゃんと教えてよ」と、また一気に奥まで突き上げられ、弓なりに反っちまうオレの背中。  その背中に……挿された塊がゆっくりと抜け始めると、ゾクゾクとした痺れが走った。如何言えばいい?突かれたソレを離したくなくて、ギュッと締め付ける襞の一つ一つに雁に引っかかり、襞の一つ一つを捲りあげられて……切なくなるような痺れ。突かれる時の圧迫感を伴う気持ちよさじゃない。そう、それとは全く反対の……空虚感でいいのか?腹ん中がきゅんとなるような……。けど、さみしいとか切ないとか、それだけじゃない気持ちよさ。体内の構造なんて、オレにはよく分かんねぇけど……。多分、突かれた時に奥へと手繰り寄せられ、薄くなって敏感になっちまってる内膜が、抜かれる時に雁で更に引っ張られて気持ちいいんじゃねぇの……?  そう……蕩け切った思考で、なんとか答えは出してみたものの、快感に喘いじまってるオレは上手く言葉には出来ねぇから「んんっ、イイ……ッ……気持ち、イ、イ……」って答えれば「そっか」と満足そうな声が聞こえて。何だよ、それ!気持ちいいって言えばいいだけなら、焦らすなよって思う。けど、もう……完全にカラダは、さっき注がれた酒の熱と、中途半端に刺激され、グズグズになっちまってるから  「ちゃんと、言った……だろ……?もう……何時もみた……く……突いて……っ」  こんな風に強請るオレは、とことんダメになっちまってると自覚はあんだけど、腰を自ら押し付けて、抜け出した塊を再び奥へと呑み込む。したら「わかった」って短く答えると激しくスライドを開始させ、もう訳の分かんねぇ、言葉にもなってねぇオレの声を、どっか遠くに聞きながらオレは果てた。  コイツ?コイツと言えば……深酒のせいか、なかなかイかず、オレは何度も啼かされる羽目になって。結局、ここんとこ……会ったら毎回こんな感じばっかだ。同期入社して出会った頃は……そんなに仕事を任されてもいなかったせいもあんだけど、性欲ばっか溜まってサルみてぇに時間があればヤル!そんなんだった。けど今は……若くねぇからそれほど互いに性欲は溜まんねぇ。それとは反比例して、あの頃が嘘みてぇに仕事が増えたし、コイツは結婚もしたし……ストレスは溜まっちまう一方で。それを酒でなんとかごまかして、飲めばエロい気分になって……SEX。  オレなんかよりコイツには嫁さんの方がいいって……いい加減、こんな関係清算しなきゃって思ってんのに、オレはバカで……。そんなオレより、もっとバカで頑固なコイツはオレと別れようとはしてくんなくって。何時まで続くかわかんねぇ関係を、ダラダラと続けてる。それでも、酒に誘われる度……期待しちまうオレは、本当にバカでどうしようもねぇ輩だ。  きっとズルいオレは……好きって気持ちをストレスと酒とエロでごまかして、コイツの傍に居座んだろう。ホント、情けねぇけど……やっぱり、コイツを離したくねぇんだよな、オレ。だからまた……誘われればストレスと酒とエロのせいにして、コイツに抱かれるんだ。ホント……マジでオレは……バカでズルくて……どうしようもねぇ輩だ。

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