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第1話
どんちゃんどんちゃん。
上司が号令かけた週末の飲み会。
裏表のない自由出席にも関わらず30人程が参加しているその会で、当たり障りないよう3回に1回は出席するようにしている俺も、近くの同僚たちと砕けた会話をしつつひっそりと俺なりにこの空間を楽しんでいた。
「おーい!泉 !お前飲んでるかぁ?なんだよ、全然減ってねぇじゃん!」
同期の庄野 がやってきて俺のグラスを覗き込む。
絡むな庄野。お前こそこの後彼女んち行くから酒控えめにするって言ってたのどーしたよ。また電車で寝過ごして彼女すっぽかして別れ話になっても俺は知らねーぞ。
「あー!いずみせんぱぁいはっけーん!こんなところにいたらダメじゃないですかぁ!飲み会になるとすぐ端っこに行っちゃうの禁止ぃー!」
今度は後輩の女の子が庄野の後ろからひょっこり顔を出す。
相田ちゃん、わかってるなら放っておいてくれ。そうやって大きな声で愛嬌振り撒いてると、ほら、ずっとこっちを盗み見てたオトコマエ強面上司が、ここぞとばかりにこっち来ちゃうんだから。
絶対目を合わせないように、その影を視界の隅にいれながらグラスに口をつけてたら、案の定影が動いてしまうのが分かった。
あーーー。
まじかよ。おいおい、こっち来んな。
誰がわざわざこんな1番遠い席でこっそり酒飲んでたと思ってんだよ。計画的だよ。計画的に遅めに合流してあんたの席を確認してからいそいそと端っこの遠い席選んで座ってたんだよ。だって、そうしないと、アイツーー仮にも上司に向かってそんな呼び方はないと思うが、ここ最近はずっと心の中でそんな呼び方をしているーーが、ほら、こっち来て。
「泉、顔ちょっと赤いな。大丈夫か?」
さり気なく肩に置かれた手。が、ねっとりと背中を往復した。
気安いスキンシップと思い込むには熱を持っているそれに、げっそりとした顔を瞬時に取り繕う俺。
スッ、と死んだ魚の目をしてこの後の展開を憂いていれば、仕事での有能さそのままにスマートに隣に腰掛けくる、俺の直上の上司、もとい城田さん。この人こそ最近の俺の悩みの種だった。
「あんまり泉に飲ませるなよ。泉は酒弱いから」
は?アンタの前で酒に飲まれたことありませんけど?
謎に部下2人にマウンティングをかます上司にイラッとする。でもここで噛みついても意味ないことを俺は知っている。むしろ噛み付くとなぜか嬉しそうにするからこういう時は餌を与えないように無言を貫き通すと決まっていた。
オトコマエでデキル上司が俺にだけ周りと違う態度だと気づいたのは、なんでだったか。
口を閉じていると怖がられることが多い一見強面のこの上司は、実際は頼り甲斐があって面倒見がよくて、部下は当然のこと同僚ひいては上司からと大多数から好かれる人だ。
豪快で寛容で快活。まさに体育会系。根っからのスポーツマン。
実際学生時代はラグビーをやっていたそうで、そんな人だからまさか、喝をいれるようにやたら気軽に叩いてくるケツがマジで狙われてるなんて、気づくわけなくない?
ラグビーとは言わないけれど、俺も小中高大とずっとサッカーやって男同士のスキンシップが普通の環境で育ってきたから、俺にしてみれば上司のそんな地味なアピールにはまったく気付いていなかった。
じゃあなんで気づいたかというと、本人から直接ぶちまけられたからである。
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