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「……だから、示談にしましょう? 辻元先輩」  言葉はやさしく歩み寄るのに、そう告げる口許は不敵な曲線で微笑んでいる。のぞき込んでくる切れ長の瞳は、憐れむようで見下すようだ。  『譲歩してやっている』と――その視線、声、表情のすべてが、俺に無言の脅しをかけてくる。 「じ……示談、って……どういう……」  こんなに威圧的な守屋は、見たことがない。こんなにたのしそうな顔は見たことがない。 「男の下着をオカズにしてる変態です、なんて噂がたつのも、それで受験がダメになるのも嫌でしょう?」  まるで小さな子をあやすような口振りで。さっきとはちがう悪気のない笑顔を浮かべて。  守屋はとんでもない要求を、こともなげに言ってくる。 「だからはやく、して見せてください。アンタのオナニー」  悪意をすこしも感じさせない申し入れに、胸の前に引き寄せている布団をさらに強く握りしめた。  恐怖と恥ずかしさと動揺にふるえながら、つめたい汗が背中を流れていくのを感じながら、絶体絶命の構図にひきつって出せない声を飲み込む。 「できますよね? 自分の立場、わかってますもんね?」  あくまでにこやかに“交渉”をつづける守屋を精一杯にらみつけた。泣きたい、暴れ出したい気持ちを歯を食いしばって押さえつける。 「アンタの嫌がることがしたいんです。申し訳ないと思ってるなら……“誠意”見せてくれますよね?」  だって、俺は被害者なんだから――  やっぱり嘲るようにくちびるを歪めて、言葉のおわりで無慈悲に突きつける。  提示された条件に、一切の拒否は許されない。承諾する以外に選択肢はない。  ――だって、俺が加害者なんだから。

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