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「……今日は趣向を変えてみませんか?」
そう提案すると、うかがうようだった上目づかいが、途端に胡散臭いと言いたげな半眼になった。覆いかぶさる俺の下から這い出るつもりなのか、ゆっくりとうつぶせに体勢を変えようとする。
そうやって怯える姿が、本当にかわいらしい。
美大受験の現役合格を期待されているらしい立派な先輩でも、俺の前では完全に小動物だ。俺が肉食獣だったら間違いなく喰っている。まあ、同じようなことをしてはいるが。
「よかったです、同意してくれるんですね」
「どこがだよっ! 俺の目をちゃんと見ろ!」
逃げの体勢をそのまま抱いて羽交い締める。まだなにか喚いているのは無視して、背けられている顎をとった。
強制的に向けられた顔は、悔しそうに歪んでいた。
俺の加虐心を煽るとてもいい目つきでにらんでくるが、やっぱりアレだなと、このところ気になっていることをつぶやいてみた。
「……あなた最近、慣れすぎてません?」
「なんのことだよ?」
「ほら……全然、俺のこと嫌がってくれないじゃないですか」
「どんな理屈だっ!」
真尋さんは、つい1週間ほど前に俺のものになった人だ。やり方は多少強引だったのかもしれないが、想いは惹きあっていたんだから問題ない、と思っている。
この人は俺をオカズにするくらい俺のことがすきで、俺はそれを理由に性的示談を迫るくらい、この人がすきだ。だから問題ない。
ただ、危惧していることはある。付き合いはじめは――それがべつに性的なことではなくても――俺のやることなすことに、いちいち頬を赤らめて目を潤ませて、ふるえるくらいだったくせに。
どういうわけか最近すこしも嫌がらない。つっかえるようだった話し方も、いまはあまりしていない――とはいえ。嫌がってないわけじゃ、ないのか。
『またいつもみたいに意地の悪いことするんだろ?』――と、構える余裕ができている。そんな感じだ。
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