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 しばらく、お互い荒く呼吸するだけの沈黙――を、守屋の唸りが破った。 「……まさか俺が先にイカされるとは」 「べ、べつに先とか後とか……関係ないだろっ」  俺の肩口から顔をあげた守屋の表情は、なんとも言えない……って感じで。  睨むまではいかない、じっとりした直視に条件反射で恐怖を覚える。  でも、守屋はふいに目を逸らした。逸らして、一度目を閉じる。そして今度は甘ったるく見つめてくる、と思ったら―― 「まあ、惚れたら負けって……言いますからね」  そんな、意外すぎる言葉をこぼしてくる。  なんだかいつかの形勢が逆転したみたいで、俺は思わず吹き出しそうになるのをぐっと我慢した。 「それに……あんな素直に、抱きつかれながら腰振られて『セーエキちょうだい』って言われたら仕方ないですよね」 「おいっ……悪意のある言い方するなっ!」  すっかりいつもの調子に戻った守屋に、いまさら後悔が過る。『どっちでもすき!』とか言ったのは撤回するべきじゃないだろうか…… 「ちょっとガチで悔しいので、延長戦です」 「――え? うそ……まっ、あっ」  くるっと、カンタンに半回転させられて、運動部と文化部の圧倒的筋力差を痛感する。  潰れない程度とはいえ体重をかけられるから、暴れても脱け出すのは不可能そうで、今度は俺が恨めしく守屋を睨む番になる。  本当に……あきれるくらい、いつもどおりな守屋に―― 「……“俺が勝つまで”ですから、覚悟してくださいね?」  あいかわらずその不敵で意地悪な笑みに――勝てない俺は『本当はおあいこだ!』なんて言えるワケもなく。  言ったとしても、勝ちにこだわる個人競技選手に闘争心で上に立てるはずもなく。  結局、いつだって――  守屋のことがすきな俺には理不尽がついてまわるんだな、と。  やさしく意地悪く、くちびるを落としてくる……その元凶に、 「……俺の不戦敗でいいよ、もう」  “惚れた弱み”――の、極みを囁いた。 _後日談1 How bittersweet you are!

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