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_2  その夜が明けての元日お昼頃、年始帰省組はぞくぞくと寮を出ていった。  三が日帰省するのが年始組大体の予定らしく、だから揃っての初詣は3日の夜なんだなと納得する。詣でるヒトの数も少ないしね。  最後に寮を出たのは守屋と俺の2人で、年末に数日帰っていた寮監が手を振って送り出してくれた。  夏休み中よりも静かな校内敷地を抜けて、正月とか平日とか関係なくざわつく駅前通りをまっすぐ進む。改札までいっしょだった歩みを分かって、反対側のホームで手を振りあって。  先にホームに滑り込んできたのは守屋の方の電車。ガラス越しの口唇が「いってきます」って、小さく笑う。  それに俺も小さく何度か頷いて「いってらっしゃい」ってはっきりパクパク返す。  停車時間はいつも通り短いし、急かすようにこっちのホームにも電車が到着するから急いで乗り込んだ。走り出すまでのわずかな時間ニヤニヤしあう。  5駅向こうと3駅向こうとに離れる守屋と俺を乗せて、電車はそれぞれ真逆のレールを走り出した。  ほんの少しの差だけど、送り出したのは俺だから「おかえり」って言うのも俺がいいな。うん、そうしよう。だってなんか年長者っぽいよね、その方が。  電車に乗るのは、思いがけず守屋がお祝いしてくれた誕生日以来だなぁ、と。流れる車窓を眺めながら、その時とは違う、よく見知った、でも久方ぶりに目にする景色を後方に見送っていく。  夏休み前は、毎日毎日何も考えずに視界におさめていた景色。それを『新鮮』だって思うのは、なんか変だけど……  ああ、あのビル取り壊してるんだ、とか。あそこ本屋じゃなかったっけとか。ここの公園の整備終わって池できてる、とかとか。  変わってることはたった数ヶ月でも劇的にあったりするし、離れてみないと……こんな風に懐かしく思ったりもしないんだなぁって。20分ないくらいのたった3駅の小旅行を楽しんで、ちょっとだけ足早に白い息を弾ませて、通い慣れた家路を辿った。  夏休み明けに、守屋を連れて1度帰っただけの──久しぶりの実家。家までの街並みに変わりはあっても、家の中も家族も相変わらず。  母さんは「おせちも雑煮もアイスもあるよー明日はなに食べたい? 真尋くんの好きなもの作るよ! あ、食べに行く?」を洗い物とか洗濯しながら、立ったり座ったりする中で息継ぎほぼなく一方的に聞いてくる。  夏休みの終わりに会ったときは、ツンツンでデレなんか少しもなかったはずなのに、本当はさみしがりな千尋は「だって部屋寒いんだもん」ってこたつに入る俺の隣から動かない。寮のみたいにデカいわけじゃないから、窮屈なんだけど……  まあ、父さんはそれらを見守る感じ。年始は大体海の向こうなのに、今年は俺のために帰ってきてくれたみたいで。でも明日の夜には戻るらしい。懇意にしてくれてる老舗ホテルからの依頼だからさすがに、って。  キュレーターとして向こうに渡ってからも父さんは忙しくしている。それでも顔を見たいと思ってくれたのは嬉しい。  もう少し頻繁に帰ったりすればよかったかな。いつでも変わらないあたたかさに申し訳なく思いながら、積もる話にあっという間に夜も更けて久しぶりに見る2階の自分の部屋は、なんだか他人の部屋みたいで。  机の上も部屋自体も明らかに片付けられてるし、シーツとか新しいし……「帰ってくるから!」って、気合い入れて母さんはあれこれしてくれたんだろうけど。そこには生活感があるようで、なくて。  最近の俺の部屋は、こうじゃない。  ベッドに座れば、反対側のベッドが見えるし。隣を見れば、いつもは……って、わかっていたけど。  当然、さみしくなってくる。 「……弱いな、俺」  ひとりごとのタイミングを読んだみたいに、スマホが震えた。誰から、なんて確かめずにすぐさまスワイプしてみれば── 「あ……送って、って言ったんだっけ」  頭撫でてもらって、気持ちよさそうなワンコの写真。守屋の実家のワンコは、代々『柴犬』で名前はオスでもメスでも『ジョン』なんだ、って言ってた。このジョンは4代目らしい。 《ワンコ元気だった?》 《ご家族も元気?》  そう送ると、すぐに既読がついた。ぽわっぽわっ、て吹き出しが浮かぶ。 《変わりなく》 《真尋さんは?》 《ウチも相変わらず》 《あ》 《写真見せたら母さんも守屋に会いたいって言ってた》 《それは光栄ですけど》 《写真?》 《きにすんな》 《ちょっと帰ったら詳しく聞きますね》  いつも一緒だから、こんな風にやりとりすることもないなぁ、なんて。トーク履歴を少し遡ると『ただいま』と『おかえり』のやりとりがほとんどだし。これも『新鮮』だな、いや新鮮ていうよりは……  ひとつひとつの吹き出しは、聞き慣れた守屋の声に変換されてる。けど、それは空耳よりも不確かで透明な音。実感のない響き。  『ここにいない』だけが、身に沁みてきて……  既読スルーになりがちだからか、守屋は《淋しくなりました?》ってふいに送ってきた。これニヤニヤしてるだろ、絶対。  《そんなことない》から微妙に間をあけて《頑張る》って打つ。  守屋はあまり間を置かずに《頑張る(笑)》って返してきて、 カッコで笑うなよ……とか思うんだけど。それよりも珍しいな、てか、はじめて見たかも、そんなふざけた感じで使ってるの。  でも、次に浮かんできた吹き出しはもっと意外で。後から後から浮かぶそれに、俺はまばたきを繰り返した。 《俺はさみしいです》 《早く帰りたいと思うし》 《顔が見たいし》 《触りたいし》 「お前、ズルい……っ」 『声も聞きたいし……って、正直に言っただけですけど』  思わず掛けた電話の先で守屋は静かに笑う。俺もそうだって見透かされたのは、恥ずかしくもあるし……嬉しくもあって、そこから先に言葉が続かなかった。  電子を伝うお互いの沈黙は気まずいわけじゃないけど、なにか言葉を続けないとって焦りを感じるのはそこに見つめる優しい瞳がないからだ、って痛感する。 「守屋、あのさ……明日っ」  なにもないなら、って続けようとしたのを『誓ー! せーいーせぇえぇぇい!』って力の限り呼ぶ声に、問いかけの先だけじゃなく意識もゴソッと持っていかれた。  だ、誰だろう……守屋に声が似てるけど、なんか豪快な感じが呼び方からも声からもバシバシ伝わってくる。 「よ、呼ばれてるけど」 『そうですね』 「え、うん……え?」  なんでちょっとイライラしてんだよ……と、思って少し無音を作ってみれば、笑い声なんかもかすかに聞こえてきた。楽しそうに盛り上がるその談笑はきっと、お酒を囲んだものだ。 『近くの親戚が集まってるんです、正月とか盆とかいつもなんですけど』  ああ、だからか……と。ためいきが混じりそうな呟きに笑う。集まりとか、守屋は好きじゃないし得意じゃないらしい。それが身内のものでも、本人は勘弁願いたいくらい、なんだな。礼儀正しいし気遣いもできるから、その場になれば淡々と上手くこなすクセに……  てか、めっちゃ呼ばれてるぞ守屋。なんか段々近づいて来てる気がするし。 「……お父さん?」 『や、兄貴です……』  お兄さんがいる、とはチラッと聞いたような。苦手なのかな……性格正反対そうな感じするしな。 「お兄さん元気だな……てか、いいよ? 行ってこいよ……俺、切るし」 『……ちょっと待っててください』  いよいよ真後ろくらいに迫った呼び声に、ためいきだけじゃなく舌打ちまでを守屋は残していって、耳許は無音になった。  これは通話口を手で押さえてる、感じかな。て、ことは……すぐ済ませようとしてるのか。  考えたけど、俺は通話を切った。  実家に帰っていないのは、守屋の方がきっとそうだ。夏休み中もお盆時期は大会とかあったし帰ってない……よな。俺が把握してる限りだけど。電話してるのとかも見たことないし、そういうとこクール、いやドライってやつなのかな。  なら、尚更──家族親戚水入らずなんだから、邪魔するべきじゃない。  だって俺は、毎日いっしょなんだし。ひとり占め……って言い方したら変だし照れも混じるけど。守屋に話す気がなくても『待ってる人たち』にはあるだろうし、そのための帰省なんだから俺とばっか話してたらなんの意味もない。  守屋には守屋の場所があるし。それは、俺も同じだし。2人でいる場所があるなら、1人ずつでいる場所も同じだけある。だって、元々別々なんだから。 「う、年始早々暗いな! やめよう……」  だって明後日には会えるんだし。頑張るって言ったし。  そう、ひとりごとの続きを心の中で呟いて、ベッドに入るけど──夢に出てきたら……やだなぁ、とか考えつくから、なかなかまぶたは落ちてくれなくて。  《電話切ってごめん》《おやすみ》って、入れたのに既読がついて。《スミマセン》《おやすみなさい》って返ってきてるのを無駄に確認してみたりして。  忙しそうだな……やっぱ我慢しよ、って。決意をあらたにして。その決意が揺らがないように……  いつまでも『俺はさみしいです』って一言をなぞった。  目が覚めると知らない天井……じゃなくて、久しぶりに見る天井で。一瞬自分がどこにいるのか、忘れる。  でも一瞬で思い出すから、反対側は見ないようにしてベッドから起き出した。  トコントコン階下に降りていけば、遅めの朝食が用意されていた。テーブルにはいつもの場所に、いつもの席に父さんも千尋も座ってて。「休みだからってちょっと起きるの遅いよー」なんて、少しも怒ってる感じなく、母さんがカフェオレを目の前に置いてくれる。  おせちの残りとテレビ番組でお正月感はあれど、これらも総じて夏休み前の風景。  懐かしい、って思うの変だよな。本来ならこっちが本当なのに。別に寮生活が嘘なわけじゃないけど……  こくり、と好みの甘さに口をつけながら眉を寄せる。  嘘じゃ、ないよなこれ。なんか、よくある映画とかドラマみたいに時間軸が歪んで戻って上塗りされましたーとかって、俺が水泳部の寮に強制収容されたのなかったことに……なってないよな? そんで、記憶もみんな抜かれてて、それで俺しか覚えてなくて……  守屋がいない世界とか──言わない、よな? 「いやいや、なに考えてんだ俺は……」  朝から暗いのも禁止!……とは思いつつ、手近に置いてたスマホをひったくる。 「兄貴なにしてんの」 「現実確認」 「犬の写真で?」 「うわぁ見るなよ!」 「なんで隠すの! え、彼女!? 彼女できたの!? お母さーん!」 「やめ、ちがっ」  よかった、守屋いた。いた、じゃない。ホントなにしてんだ俺──とも、思いつつ……トーク履歴は寝る前に見たままで新着はない。それが無性に不安と淋しさを募らせる。  『おはよう』って送ろうとして、でもやめた。返信ついたらダラダラ続けそうだ。やめどきがわからなくなって、きっと結局……昨日言えなかったことを、言わなかった『いっしょに今日帰ろうよ』を送っちゃいそう。  落ち着いて考えろ……今日一日の我慢じゃないか。  うんうん、って頷いて言い聞かせてはみるものの、気になって仕方ないからスマホ片手にこたつでグダる。いや、待機する。  もし、守屋から連絡があったらそこは素直に返そうと思うけど。俺のスマホは沈黙を守ってばっかりで、昨夜みたいにふいに光る気配はなさそうで…… 「はい、兄貴アーン」 「えっ」  唐突に掛けられた声に、突っ伏していた顔をあげた。指先に摘ままれているミカン色の粒を見つめて、止まる。 「な、なに……別にいらないならあげないけどっ」 「あ、いや……うん」  ミカンにも千尋にも、全然少しも罪はないから俺は素直にオレンジの粒をいただいた。でも……「あーん」は、余計さみしくなるから言わない。 「真尋くんアイスもあるけどー? おっきいの買っちゃったのー私も食べていーい?」 「私もちょーだい」 「……うん」 「真尋は寮でもアイスとお菓子ばっかりなんだろ、ちゃんと食べてるのか? 寮は食堂あるんだろう?」 「……うん」  山盛りに取り分けられたデザートグラスから何度かスプーンを運んで。残りは甘ったるく溶けていくのに任せた。  いじけてたって『ひとり』なんだから、なんの意味もないのに。  寝ても覚めてもそれしか考えらんないし、好きなものさえ喉を通らない。でも治る治らないじゃないから……つける薬もないし、だから医者もいらない。きっとこれは、病気だ。 「兄貴、なんか元気なくない?」  スプーンをくわえたまま、千尋が不思議そうな顔で見下ろしてくる。 「ホームシックなんだよ」 「ここがホームなんだけど」  結局、守屋からの連絡はその後もなくて。  やっぱ忙しいんだな、俺からも連絡しなくて良かった、て思うのは……気持ちの半分くらいなんだけど。《明日 13時に駅で待ってる!》《おやすみ!》って既読つくのは確認しないで、スマホも瞼も閉じた。  あと、もう少し。もう少し頑張ったら……  そう思わないと『真尋さんはやっぱり嘘つきですね』ってきっと笑われるから。  早めに寝たはずなのに、眠りに落ちたのはだいぶ後だった。  「今日もゆっくりだねー」ってこれは母さんじゃなくて千尋の嫌味。相手にしないでテーブルについたら昨日はなかった封筒があって「それパパからだよ」って、母さんがミルクティーの入ったマグを置いた。  中には、お年玉と美術館のチケットに個展のパンフレットが数枚入っていた。毎年のことなんだけど、父さんにはいつも感謝。俺の好きな画家を知ってくれてるだけじゃなく、俺の才も伸ばそうとしてくれてることは本当に嬉しい。  2月には少し長くそっちに帰るよ、って手紙に応えられる春を迎えたい。  牛乳たっぷりめのミルクティーを味わっていたら、そろそろ出ないといけない時間になって。慌ててコートを羽織る。  「たまには電話くらいしてね」って手を振る母さんの横で、千尋は「ここがホームなんだからね」って不貞腐れた顔をする。よしよしって頭を撫でたら、ぺしっと叩かれたけど笑って送り出してくれた。  名残る気持ちもあるけれど、焦がれる気持ちはそれよりも強くて。来たときよりも弾む白い息で、今の俺の家路を急いだ。  待ち合わせの改札に降り立ったのは、その甲斐あって約束の時間10分前。  ちょっと早いかな……でも「おかえり」って言うのは俺からって決めたしな。  急行が停まるからもともと本数は多い駅だし、だから三が日中とはいえ間隔も短い。きっとすぐ……もうすぐあの階段かエスカレーターをのぼってくる人波の中に、見えるはずだ。  そう握り締めたスマホには『あと5分くらいです』って知らせが届く。『待ってる!』って送ってもスマホは仕舞わずにおく。画面の小さな時計をチラチラ確認しながら、雑踏を目でかきわけた。  まだかな。まだかな。  ……まだ、かな。 「真尋さん」  ざわめきを割る、真っ直ぐに届く声が、後ろからした。  耳のすぐそばで聞こえるそれ。  と。  コツ……て、あたる後頭部の重み。 「俺……拗ねてんですよ」  額を俺の髪に擦り寄せて。だから振り返るな、ってその声は言う。そうじゃ、なくても。振り返るのは今、ちょっと難しい……けど。 「……俺は頑張らないで、素直に言ったのに」  たまに聞く、手に取るように感情のわかる声音は消え入りそうなのに。改札に溢れる雑音も、短く注がれる興味の視線も俺の恥ずかしさも、難なく遠ざけていく。 「電話は切るし、自分から連絡入れてこねぇし、入れてきたと思ったら必要事項のみだし……返したのに既読つくのは朝だし」  少しの沈黙の後に、守屋は切り替えるような……深呼吸みたいなためいきをついた。 「アンタは時々変に物分かりがいいから……本当は、真尋さんの『好き』は……自分で言うほどでも、俺が期待するほどでもないのかなと」  そこで、後頭部の重みは離れていった。振り返れるタイミング、だとは思う。でもやっぱり……難しい。 「思ってたんですけど、違いました」  伸びてきた腕が、俺のそれを掴んで。くるり、と回転をかけられて。やっと、向かいあった俺の顔を見た守屋は、 「たった1日会わないだけでボロ泣きするほど……真尋さんは俺のことが好きでした」  そう言って、吹き出すのを堪えずに笑った。  それは、──からかいとか意地悪とかじゃなく、安心したような──守屋らしくない眉の下がった笑みだから。そんな顔、見られるなら──こんなとこで、周りがちょっと避けて通るくらい──ボロ泣きするのも悪くはないかなって、思えてくるから不思議だ。 「真尋さん、ただいま」 「おかえり……守屋」 「おかえりなさい」 「……ただいま」  全然止まりそうにない涙を拭いながら、拭られながら。しゃっくり出そうな声で問いかける。 「もう、言ってもいい?」 「どうぞ」 「俺も、さみしかった……アイス食べられないくらい、さみしかった」 「……病気ですね」  じゃあご褒美こんなにいらないですか? って、駅前のコンビニの袋を鳴らしながら、守屋はいつも通り意地悪く笑った。 □□□ おまけ □□□  寮に帰ったら談話室にはだーれもいなくて、開き直って調子乗って、でも多少は気になるから、ぴったりくっつかない程度に隣りあってこたつに入った。  一息吐いたところで「これ昨日買ってきました」って朱印の押された白い封筒みたいなものを渡された。中身は、御守り。  「ないよりは、あったほうがいいでしょ?」だって。  もう本当にどんだけ優しいんだって、感極まって抱きつこうとしたらドヤドヤ見慣れた顔たちが帰ってきて、寒い寒い言いながらこっちにまっしぐらだから断念する。  「辻元ー会いたかったよー」て、俺の隣に峰が座ってきて「俺も守屋さんに会いたかったッスよー」て、悪ノリなのか天然なのか守屋の隣に葛西くんが座る。両側からぎゅうぎゅう押されて、「苦しい!」「嬉しいクセにー」と、無言と朗らかな笑い声。  斜め隣で我関せずな蓮池が「辻元これ」ってさっき守屋からもらったのと似たような白い包みを出してくる。  ウソ、なんでお前まで優しいのって潤んだ目にはもう二つ同じようなのが両側から差し出されてるから、なんなのもう……  御守りっていっぱいあると、神様同士ケンカするっていうけど……  「ケンカするほど仲が良いって言葉もあるからいいんじゃないのか?」って、ポジティブ思考な寮長は言う。  「え、でも」ってワンコくんが例外をチラ見したら「対等じゃないからケンカじゃないよー」って泣きボクロ様は宣った。  無表情が無愛想に「ですね」って同意。俺はとりあえず笑っておいた。  わらわらと談話室に話し声と笑い声が溢れてきて、年末組と年始組が顔を合わせては冗談混じりに新年挨拶をする。それは分け隔てなく、俺にも掛けられて。今年だけといわず、よろしくできたらいいな……て。  『ずっと、このまま』を願う想いは、ひとしお募る。  右側に馴染む硬い弾力と伝わるあたたかさに、こっそり……頬をつねった。 _Ex.8 Absence makes Heart grow Fonder.

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