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ブルドック ⑦
それから1週間後。待ちに待った瀬名の退院の日がやって来た。昨夜は中々寝付けず、ずっとそわそわして落ち着かなかったくらいだ。
理人が迎えに行くと、瀬名は見送りに来ていたナース達と楽しそうに談笑していた。その姿に若干イライラさせられたが、顔に出そうになるのをグッと堪えて瀬名の元に歩み寄った。
瀬名は足音に気付いたのかこちらに顔を向けると嬉しそうに笑う。その笑顔を見ると、今まで感じていた苛立ちが嘘のように霧散していった。
――我ながら単純だな……と思いつつも仕方がない。彼の事が好きだと自覚してしまってからというもの、どんな些細な事にすら一喜一憂してしまう自分がいて、戸惑ってしまう。
以前なら煩わしいとしか思わなかった感情なのに、今はそれが心地良いと感じている節があるから驚きだ。
「――おい、荷物はこれだけなのか?」
「あ、はい。元々そんなに物が多いわけでもないですし……」
理人がボストンバックとキャリーケースを指差すと瀬名は少し照れくさそうに頬を掻く。それをひったくるようにして受け取ると、挨拶もそこそこに駐車場の方へと歩き出した。
「理人さん、タクシー乗り場は……」
「必要ない。今日は車で来たからな」
「えっ!?」
驚きの声を上げる瀬名を無視して、車に荷物を載せ助手席のドアを開けてやる。
「なんだ、乗らないのか?」
「あ……いや、理人さんが車持ってたなんて知らなくって……普段は電車通勤だし」
「普段は使わん。仕事帰りに酒が飲めなくなるだろうが」
「あ、そういう……。ははっ確かに」
苦笑しながら瀬名が乗り込むと、理人は運転席に乗り込んでエンジンを掛ける。サングラスを掛け、瀬名がシートベルトをした事を確認してから勢いよくアクセルを踏み込んだ。
「わっ、ちょっ……飛ばし過ぎですよ! スピード違反で捕まりますって!!」
「安心しろ、そんなヘマはしない」
「あぁもう……なんでそんな自信満々なんですか……」
瀬名が呆れたような声を出すが、構わず理人はハンドルを切った。
「そんなの決まってるだろ……」
「え……――うわッ」
慌てて体勢を立て直した瀬名が文句を言うより先に理人は口を開いた。
「早く二人きりになりたいからな」
言いながら、信号で止まると同時にするりと手を伸ばし瀬名の太腿に手を置いた。途端にビクッと身体を震わせる瀬名に理人はフッと意地の悪い笑みを浮かべる。
「……ッ、運転中に悪戯は止めてください」
「別に構わないだろ? どうせ誰にもバレやしないんだ……。それに、スリルがある方が燃えるんじゃないのか?」
「~~ッそうやって煽って……狡いですよ理人さん……」
恨めしげに睨んで来る瀬名に理人はますます口角を上げ信号が変わると同時にアクセルを踏み込み、左手はきわどい部分を悪戯に撫で上げて来る。股間を下から上へと形を確かめるようになぞられて、瀬名は小さく息を呑むと堪らず身を捩った。
「んッ……」
「ほら、もっと色っぽい声で鳴いて見せてくれ」
「~~~~ッ、調子に乗らないでください! このエロオヤジ!」
真っ赤になって抗議する瀬名だったが、理人は愉快そうに喉を鳴らすばかりで一向に手を離そうとはしなかった。
そのまま暫く走り続けると、次第に辺りの景色はビル群から自然の多い風景へと変化していく。
平日の昼間という事もあり、道路は比較的空いていた。時折すれ違う対向車のドライバーからチラリと視線を向けられるのを感じ、瀬名は居たたまれない気持ちになる。
幸い、理人の方は堂々としたもので、まるで気にしている様子がなかった。
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