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ブルドック ⑩

ハッチバックを開けた車の荷室に腰を下ろし、背後にいる瀬名に身体を預けながら眼下に広がる景色を眺める。真っ赤な夕日と夕映えに輝く海と雲、そしてその奥に浮かび上がる高層ビル群のシルエットが辺り一面に幻想的な風景を作り出していた。 オレンジ色から濃い紫へと変化していく空を彩るのは、夜の始まりを告げる星々の煌めきだ。 「へぇ、凄いですね……」  普段目にしているものとは全く違う光景に瀬名は感嘆の声を上げ何処か嬉しそうに理人の肩に顎を乗せた。  あの後、ずっと行ってみたかったちょっとお高めの高級寿司屋で昼食を済ませ、海に向かって車を走らせ、この海沿いの街の名所でもある美しい公園へとたどり着いた。  海岸を見渡せる絶景のロケーション故に、夏休み前後には多くの若者で賑わっているこの場所も、流石にオフシーズンともなれば人もまばらでほぼ貸し切りのような状態になっている。 「僕、こういう景色嫌いじゃないです」 「そうか、良かった。俺、此処から見える景色が好きなんだ……。海が好きってあったからいつかお前を連れてきたいと思ってたんだ」 「ん? 僕、理人さんに海が好きだって言った事ありましたっけ?」  不思議そうに首を傾げる瀬名に理人は一瞬言葉に詰まる。しまった、うっかりしていた。まさか、探偵に頼んで身辺調査で得た情報だとは言えない。 「……っ、言ったじゃねぇか……忘れたのか?」 「んー? そうでしたっけ? でも、まぁ……嬉しいです。理人さんと一緒にこんな素敵な景色が見れて」  瀬名は少し考える素振りを見せたものの、特に不審に思った様子もなく、再び海の方を向いて眩しそうに目を細めた。 「……それにしても、理人さんダッシュボードの中にまでアダルトグッズ入れてるとかどんだけなんですか。夏場は暑くなっちゃうからローションが爆発しちゃわないですか?」 「べ、別に……っいつもあんなものを入れてる訳じゃない! 今日はたまたま……」 「たまたま? へぇ~じゃぁやっぱり、最初から僕を襲う気だったんですか。理人さんのえっち」 「ち、違っ……そんなんじゃねぇっ」  慌てて否定するが、瀬名はニヤリと笑って理人を覗き込んだ。 「違う? じゃあなんであんなもの準備してたんですか?」 「そ、それは……その……っ襲う気なんて無かったんだ。全く期待していなかったと言えば、嘘になるが……」  瀬名の視線に耐えきれず、理人は顔を赤く染めて俯く。  恥ずかしい。穴があったら入りたい。

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