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ムーランルージュ ③

一体誰だ? 瀬名の元カノの名前だろうか。瀬名は別れたと言っていたが、もしかしたらまだ続いているのかもしれない。  でもどうして今頃……?  今まで気付かなかっただけで、もしかすると他にもそういう相手がいるのか? いや、瀬名に限ってまさか……。  ぐるぐると考え込んでいると、瀬名が浴室から出て来たので理人は慌てて手に持っていたスマートフォンをテーブルに伏せた。 「理人さんも入れば良かったのに。お湯、張ってあるから気持ち良いですよ」 「そ、そうか」  瀬名は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、そのままソファに座ってゴクゴクと喉を鳴らして飲み始めた。  至って普通の光景だ。とても何かやましい事をしている男の姿には見えない。  理人はその様子を横目に見つつ、瀬名には気づかれない様に小さく息を吐き出すとゆっくりと立ち上がる。 「俺もシャワー浴びてくるから、お前はゆっくりしてていいぞ」 「はい」  理人は逃げるようにしてその場を離れると、足早に脱衣所に向かった。そして、扉を開けるなりその場にしゃがみ込むと盛大なため息と共に頭を掻き乱す。  瀬名が真奈美と言う女性とどういう関係なのか。何故、連絡を取り合っているのか。  知りたいけれど、知るのが怖い。 「俺はアイツのこと何も知らねえんだな……」  ポツリと自嘲的な笑みを浮かべながら呟き、シャツのボタンに指を掛けた。ふと、鏡に映った自分の左手に目が留まる。  薬指に嵌められた指輪が鈍い輝きを放っている。瀬名と恋人同士になってから、ずっと身に着けているものだ。  この指輪は瀬名と自分を繋ぐ証のようなもので、理人は無意識にそれを撫でると再び大きな溜息を漏らした。  瀬名と一緒に居られるならそれでいいと思っていたのに、いざその事実を突きつけられると胸が苦しくて仕方がない。  理人はのろのろと立ち上がって服を脱ぐと、熱いお湯を頭から被る。  この気持ちは何なのだろう。  真奈美という女は瀬名のなんなんだ? 今日会ったと書かれていたがいつの間に? そう言えば、今日は外回りに行くと言って2時間ほど戻って来なかった。もしかして、その時だろうか? 考えれば考えるほど疑念は深くなり、理人の心の中にドス黒い感情が生まれる。こんな気持ちは初めてだった。  こんな醜い自分なんて見たくなくて、必死に抑え込もうとするが上手くいかない。  この気持ちをぶつけてしまったら瀬名との関係が壊れてしまいそうで怖い。 「……クソッ……」  理人は苛立たしげに舌打ちすると、乱暴にシャンプーのボトルを掴んだ。

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