126 / 127

キャロル ⑪

「――って、事があったんだよね」 「へ、へぇ~」  恍惚とした表情で瀬名が盛大なのろけを話すのを、一臣は引き攣った表情で聞いていた。  朝一でニヤニヤしながら瀬名が近づいてきた時点で嫌な予感はしていたが、まさか開口一番 「理人さんとのエッチが凄すぎてクセになっちゃいそうだったよ」  と来るとは思わなかった。 「まさかあの理人さんが、やら、とからめぇって舌っ足らずで言うとは思ってなくて……結局その後、抜かずに3回も続けてシちゃったんだよね。あー思い出しただけでも勃ちそう」 「知るか!!」  一臣は思わず突っ込みを入れ自分のデスクに突っ伏した。  何が悲しくて自分が狙っている男の性事情を聞かされなければならないのだ。  コイツ、絶対わかってて自慢してるんだ。自分を同じ土俵にも立たせないばかりか、わざわざマウントを取りに来るとかどんだけ性格悪いんだよ。そう思うと無性に腹が立ってくる。 「お前さ、そんな話俺にして楽しいか?」  一臣が睨み付けるように見上げると瀬名はキョトンとして首を傾げた。そしてニコッと爽やかな笑顔を浮かべる。 「うん、超楽しい」 「…………」  一臣は返す言葉を失って黙り込んだ。この腹黒男! きらっきらの笑顔で残酷な事を言うヤツだ。  理人はこの腹黒変態男の何がいいのだろう? どう考えたって、自分の方が絶対カッコいいのに。  理人が瀬名を選ぶ理由が全く理解できない。 「理人さんが僕の為にカレー迄作ってくれて……最高だったな」 「へぇ、そうかよ」 「しかも、お風呂上がりの理人さんが色っぽ過ぎて我慢出来なくって、そのままベッドで1回戦に突入して……あまりに可愛かったから思わず動画撮っちゃったけど、いる?」 「あぁもう! のろけは要らねぇっての! でも、動画は寄越せ」 「要るんだ」  瀬名がにやりと笑ってスマホを操作しようとしたその時――。 「瀬名……てめっ、いつの間に動画なんか……」  ゴゴゴゴゴ……という音が聞こえてきそうな程の迫力で理人が近付いて来た。 「あれ、理人さん、おはようございます。今日は早いですね?」 「はぐらかすんじゃねぇ! 朝っぱらから……デカい声でベラベラと……頭沸いてんのか!?  つか、桐島! てめぇも普通に動画貰おうとしてるんじぇねぇ! クソどもが!!」  ぐりぐりと拳骨で頭を締め上げる理人に瀬名は「痛いですって」と言いながらも嬉しそうにヘラヘラしている。 「ッてぇな、なんで俺まで……」 ***** 「……課長、いいんですか、アレ放っておいて……そろそろ止めないと鬼塚部長だいぶキレてますけど……。 ほら、もう血管浮き出てるし……」 「あぁ、大丈夫だよ。アレはじゃれてるだけだから」 「そう、なんですか?」  3人の様子を遠巻きに見ながら心配そうに話しかけて来た萩原に片桐はニッコリと微笑んだ。まぁ、確かに傍から見たら理人の制裁に見えるかもしれないが、実は理人も満更ではなさそうだ。理人の照れ隠しだと知っているからこそ、瀬名も敢えて怒られるような事をするし、理人も本気で怒ってはいない。  勿論、本格的な喧嘩や暴力沙汰になりそうな気配があればすぐにでも仲裁に入るつもりだが、今のところその必要は無さそうだ。  まぁ、理人の怒りが頂点に達した時は、それはそれで面白いのだが。 「課長、絶対面白がってるでしょ?」  いつもはクールで仕事がデキる上司なのに、恋人の事となると途端にポンコツになる理人を見ていると庇護欲と加虐心が同時に刺激されて堪らない。 「ふふ、わかる? 鬼塚君って可愛いよねぇ」 「あ~……はい」  萩原は呆れたような顔をしたが、否定はしなかった。 「というか、みんな薄々気付いてたよね? あの二人の関係」 「え? まぁ……鬼塚部長わかりやすいと言うか……瀬名も新しく来た桐島君も隠すつもりは全然ないみたいですし」 「僕もね、最初は戸惑ったんだけど……二人を見てたら段々とそういうものなのかなって思えるようになってきて……今では結構楽しく見てるよ。特に鬼塚君は普段はあんなにしっかりしていて頼れるのに、瀬名君の前だと急に人間臭くなるからね。つい揶揄いたくなっちゃうんだ」 「あぁ……わかります、なんとなく」 「あ~今日もウチの課は平和だねぇ~」  二人は顔を見合わせて苦笑すると、楽しげに戯れる3人の姿を眺めていた。 ~第一部完~   第2部へ続く……?

ともだちにシェアしよう!