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第1話 星の属性

   遥か昔、天に座す神々と星々と人がもっと近い存在であった頃。  地に増えて争う人々を見て神々の王は言った。 「黄道十二宮の(あるじ)の化身を地に遣わせ。地上に安寧を」  それぞれの星の宮から、輝く煌めきが大地を目指す。ある者は赤く、ある者は青く、それぞれの形をとってただ一直線に。天から一斉に輝きが舞い降りるのを見て、地上の人々はこの世が終わるのかと恐れ慄いた。  十二宮の化身たちは王の命を忠実に守り、地上を治めることに力を尽くした。  それから長い長い時が経ち。  地上では、火と土と風と水の属性を持った人々が生まれるようになった。  ★★★ 「いいかげんにしろ! やめろったら!!」  いたい、痛い、いたい!  体をめがけて幾つもの氷の塊が降ってくる。真っ先に頭が狙われ、肩に、背中にと絶え間なく降り注ぐ。おれは両手で頭を抱えて道路脇に座り込んだ。体の周りに熱の膜を張ると、触れた氷塊は次々に溶けて消えていく。  てっきり、もう攻撃されることはないと思っていたのに。  屋敷から離れたところを狙ってくるとは意地が悪い。道行く人々は何も気づいていないようで、急ぎ足ですれ違っていく。おれの周りにだけ結界が張られているのだろうか。  はあと息をついて口元を押さえれば、右の手の平にはぬるりと血がついた。最初に不穏な気配を感じた時に上を見たのがいけなかったのだろう。よけた氷塊は頬を掠め、触れた力の衝撃で口の中が切れた。たまたま触れた部分が良かったのか悪かったのか。そこは力の集中点である星紋が浮かぶ場所だった。  ああ、これはまずい。  右頬が次第に熱くなり、肌の表面に紋が浮かび上がるのがわかる。限界に近い危険が迫ると体の防衛本能が動き出し、星紋が体中に指令を送る。体内の力を最大値まで増幅させろと。さらには、攻撃してくる者とは戦え、と。おれは誰とも戦いたくなんかないのに、そんな気持ちは誰にも届かない。  自分の体が徐々に熱を帯びて、黄金色の輝きに包まれるのを感じた。 「ひみー! 火未(ひみ)? どうしたのさ」 「死んでんだけど、顔」  そっくりな顔が二つ並んでこちらを覗き込む。 「るか……。ふぶき」  どちらがどちらかわからなくなりそうなくらいよく似た顔だけれど、彼らはすぐに見分けがつく。金の瞳の流風(るか)と黒の瞳の風吹(ふぶき)。それぞれに太陽の瞳と夜の瞳を持つ双子座たち。  風の一族には双子が多い。元々の祖先に双子がいるんだから遺伝的にも双子の因子が強いんだろう。  友人たちの声をぼうっと聞きながら、おれは疲れきって机の上にぐったりと体を預けていた。路上で力を放出しきった頃、見知らぬ相手からの攻撃は止んで、いつのまにか結界が解かれていた。  大丈夫ですか? と通行人に声をかけられて、ようやく我に返ったのだ。  余程屋敷に戻ろうかと思ったが、勘のいい使用人や家族にばれたら益々余計な詮索をされるだろう。それこそ今後、家から一歩も出してもらえないかもしれない。 「火の一族の元気が無いと何だか不安になるんだけど」 「ほんと、ほんと。大抵何かに燃えてるのにね。ちょっと待って、甘いもの食べる?」 「あ、俺も持ってるよ」  机の上に飴やらチョコやらが積まれていく。二人から心地よい風が流れて来て、少しずつ心が浮上する。火と風は相性がいい。二人の力がゆっくりとおれに向かえば、おれの中の力も勝手に増していくのだ。

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