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第11話 金羊の呟き
百獣の王と、一刺しで命を奪う猛毒を持つ蠍。
火と水が憎悪をぶつけあって渦巻く空間のことなど、眠り続ける火未は何も気づかなかった。自分の中に秘められた膨大な力が解き放たれた事にすら。
自我が押しとどめていた精神の封印を、肉体の快楽は簡単に開け放す。目覚めた時に初めて、白羊宮の主は大きな力を手にしたことに気づくだろう。
火未の体の内にいた子羊は、ぱちりとつぶらな目を開いて起き上がった。押し出されるように外に出て、眠る主の枕元に立つ。
主の頬を彩る星紋が強く輝き、横たわる体からは黄金の光となった力が放たれた。
光は一直線に子羊に向かい、瞬く間に羊の体を大きく成長させていく。柔らかな毛並みは艶やかな金色に変わり、ふさふさと体を覆った。小さな角はぐるりと雄々しく巻き上がり四肢は力強く伸びていく。
牡羊はベッドから跳ね降りて自分の力強い蹄で床を蹴った。守護獣は成獣になって初めて口を聞くことができる。
『やれやれ、長くかかったものだ。ようやく星々の間 を飛ぶことが出来る。火未、目覚めたらどこに行く?』
その瞳は濃い金色に輝き、夜空の星々と同じように煌めいている。
「ん……」
火未が何かを求めるように、細い腕を差し出してきた。牡羊がベッドの上に体を乗り上げると、ふさふさした毛をぎゅっと抱きしめて、ふわりと笑う。
「……あったかい」
地鳴りがして、屋敷が揺れた。何かが壊れ、砕ける音が聞こえてくる。
獅子と蠍はいつまで戦うつもりなのだろう? 護り主の細い体を自分の毛で包みながら、ここが壊れる前に飛び立つ先を牡羊は考えた。
宿主を巡る人間たちの争いは当分続きそうだが、自分には関係がない。もしも主が自由を求めたならば、いつでも行きたいところに連れて行く。蠍の深い愛情の詰まった結界すら今の自分には無きに等しい。いざという時は自分が盾になって守ればいいのだ。大事なのは目下、この人間だけなのだから。
黄金の牡羊は逞しい体で、眠りについた主をしっかりと抱え込む。小さな欠伸をひとつして、自分も静かに目を閉じた。
―完―
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