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第10話 獅子と蠍
朝まで交わり続け、火未の中の残滓を搔きだそうとすれば再び情欲が湧く。さらに深く貫いて、意識を失った恋人を水刃は深く抱きしめた。
とうとう抱きつぶしてしまった。
可哀そうに思う気持ちと同時に愛しさがせめぎ合い、とてつもない満足感が沸き起こる。
火未の頬に浮かんだ星紋をゆっくりとなぞる。紋が浮かび上がるのは心身が極限に達した時だ。危機と快感は紙一重。眠り続ける恋人に、水刃は聞こえないとわかっていながら話しかけた。
「ごめんね、火未。うちの一族にも過激な奴がいて、いくら大事だと言っても同族以外はなかなか認めてくれないんだ。でも、火未に手出しをした奴らは絶対許さないからね」
猛烈な怒りで瞳が赤く染まるのがわかる。美しい金羊を傷つける者を決して許しはしない。火未を犯そうとした愚かな男たちのように、毒で苦しませた上に細かく刻んで海に投げ捨ててしまおうか。
白く華奢な体に幾つもの紅い花が散っている。もう決して離さない。属性が違うからといって、どうしてこの子をあきらめる理由になるのだろう。桜の下で人の輪から離れてぽつんと立っていた。孤独でも美しく輝く火の子ども。一目見た時から強く惹かれていた。
腕の中に抱きしめて眠ろうとした時、轟音と共に、結界に何かが触れた気配がした。チッと舌打ちしたい気持ちに襲われながら、ほんのわずかな光を残して寝室に何重にも結界を張る。蠍の巣穴から勝手に出入りすることは許さない。素早く衣服を身につけて外に出た。
空中に炎をまとった男が立っている。煌めく星の瞳を持つ男は、口元だけに微笑を浮かべている。瞳は憎悪を宿し、少しも笑ってはいなかった。
「はじめまして、天蠍宮 の主 。婚約者を迎えに来たんだよ。可愛い羊を返してもらおうと思って。少々居場所を探すのに手間取った」
「……人の敷地に勝手に入ってこられては困る。傲岸不遜な獅子にありがちだな。君の婚約者など、ここにはいない。帰ってくれ」
「流石は蠍だな。虎視眈々とチャンスを狙ってきたわけか。羊を閉じ込められるとでも思っているのか? あれは新しい世界を求める最初の星座だ」
「人聞きの悪いことを言う。閉じこめるつもりなどないし、こちらは手に入れる努力を積み重ねてきたんだ。勝手に他所 の土地で縄張りを広げていたのは君の方だろう?」
「まさか水の一族が正反対の火に手を出してくるとは思わなかった。火の一族は火のものだ。同族と連れあうことこそがふさわしい!」
獅子が唸り、恫喝を込めて吼えた。蠍は獅子の咆哮をものともせずに嘲笑う。
「もう、あの子はぼくのものなのに? 残念だったな、気がつくのが遅すぎる」
蠍の言葉が猛毒となって獅子に向かえば、炎が憎悪を孕んで猛火と化した。水が轟くうねりとなって巻き上がり、たちまち炎を抑えにかかる。力と力がぶつかり合って空間が歪んだ。
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