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12 おれの初めてを全部盗む気かもしれない。

 スマートフォンに設定したアラームに叩き起こされ、怠い身体を起こす。気づけば寝汗が酷い。同衾している相手の体温が高いせいだ。 「――」 『エッチのあと同じベッドで目覚める』。まで奪われてしまった。何なの本当に。おれの初めてを全部盗む気か。  呑気に眠る横顔をじとっと睨み付け、頬を膨らませる。  あの後、結局なし崩し的にもう一度抱き合い、疲れはてて眠ってしまった。そのまま寝たので身体は不快だし、裸だし。 「最悪……」  はぁ、と溜め息を吐いてのそりと起き上がる。怠いし、あちこち痛いし、なんか挟まってる感じがするし。 (とんでもない体験したな……)  なんでこうなったのか、思い返しても解らない。避けていたはずなのに。 「シャワー……。寝せておくわけにいかないか……」  放っておいてシャワーに行こうとも思ったが、他人を自分の部屋に置いておくのはやはり嫌だ。仕方がない。起こすしかない。  星嶋の肩に手を掛け、身体を揺する。 「おい、星嶋。起きろ」 「ん……」  星嶋は眉間にシワを寄せて、一度寝返りを打った。もう一度揺さぶると、跳び跳ねるように起き上がる。 「っ!」 「さっさと起きろ。おれシャワー行くから」 「――」  星嶋はボンヤリした顔をして、何事が起きたのか解らない様子だった。だがすぐにハッとして顔を上げ、顔をサッと青ざめさせる。 「っ、くそっ!」 「早く出てくんない? シャワー浴びたい……」  本当に、嫌になる。どうせまた文句を言うのだろう。聞かされる前に脱ぎ散らかした服を押し付け、自分も着替える。シャワーは二十四時間使える。朝の時間に使う人間はさほど多くはないが、混雑するのは面倒だ。 「……俺も行く」 「えー……」  嫌だな。そう思って星嶋を見たが、星嶋はムッと顔を顰めて睨み返してくる。怖いのでパッと目を逸らした。 「こんなナリで会社行けねぇよ」 (まあ、そりゃそうか)  お互い、汗でべたべたの身体だ。おれはハァとため息を吐き出し、お風呂セットを手に取った。  ◆   ◆   ◆  幸いなことにシャワーは混雑しておらず、おれも星嶋もスムーズにシャワーを済ませることが出来た。星嶋より早く出ようと急いで洗ったのだが、結局は同時になった。火照った身体をタオルで拭く俺の横で、星嶋も身体を拭いている。もう少し離れてくれないかな。  チラと星嶋を見る。肌を見て、昨夜のことを思い出し赤面した。 (くっ……)  おれがドキドキしちゃうのは、不慣れだからだ。男の人と性的な接触なんて、したことがないから、星嶋だけ特別に見えてしまうのだ。くそ。  シャツを羽織ってタオルを肩にかけたところで、星嶋が声をかけてくる。 「おい」 「……」  無視しようとしたが、腕を掴まれ、仕方がなく顔を上げる。 「何だよ」 「指輪」 「あんなしておいて、返せって言われても嫌だ」 「あぁ?」  凄まれ、ビクッと肩を震わせる。思わず手で頭を庇った。 「――……、あのなぁ、テメーはムカつくけど、殴りはしねえよ」 「……ひっぱたくとか?」 「そうじゃねえ」  バシッと背中を叩かれる。叩かないって言ったのに! 「痛っ! 酷っ! 嘘つき!」 「お前がゴチャゴチャうるせえからだろっ!」 「暴力反対! 寮内での暴力行為は禁止なんだからねっ!」 「こんなの、暴力に入るかっ!」 「入りますぅ!」  産業医に言って診断書書いてもらうんだからっ! 暴力男めっ! 「何の騒ぎ?」  その声に、おれと星嶋はハタと顔を上げた。黒縁眼鏡の青年が、不審そうな顔でおれたちを見ている。 「――榎井、っと、なんでもねーよ」 「……」  おれは知らない人なので、取り合えず黙っておく。榎井と呼ばれた青年は疲れた顔をしていた。こんな時間にシャワーを利用する、疲れた顔の男。夜勤なのかもしれない。 (今のうちに、逃げちゃお)  また絡まれたりしたら面倒なので、おれはさっさと退場することにする。そそくさと荷物をまとめ、「お先」と言って横をすり抜けた。  星嶋はが「おい」と声を掛けてきたが、当然ながら無視をした。

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