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17 担カラーを買うのです
「は? そのデザインなら、こっちの色のが良いだろうが」
そう言って星嶋が隣に掛かっていたグレーのカットソーを手に取り、押し付けてくる。「うん、こっちのほうが良い」などと言われると、何だか気恥ずかしかった。
「それは、どうも。でも黄色が欲しいんだよね。正直デザインは二の次で……」
グレーのカットソーを戻し、もう一枚近くにあった薄い黄色の服を手に取る。濃い黄色より薄い黄色のほうが、おかしくないだろうか。星嶋はおれが黄色を手にしているのが気に入らないようで、鼻息を鳴らす。
「アンタ黄色なんか似合わないだろ」
「まあ、それはそう」
おれって落ち着いた色の方が似合うんだよね。だから結局グレーとか紺とか、そういう色ばっかりになる。星嶋は赤い髪が似合うように、明るい色も良く似合う。今日は黒い服に蛍光グリーンのアクセントが入った服だ。よく見れば結構、おしゃれをしていると思う。
「解ってんのに黄色にすんのかよ」
「亜嵐くんの色だからね」
そう言ったおれに、星嶋が動きを止めた。
「――なんだ、それ」
まあ、担当カラーという奴ですよ。アイドルオタクにしか分からないヤツ。ちなみに亜嵐くんは黄色い衣装が良く似合う。明るい色が映えるのだ。
「……お前、その、亜嵐ってのとは、長いのか?」
「ん?」
ファン歴の話? まあ、『ユムノス』もなんやかんやデビュー五周年を迎えたしねえ。小さい会場で歌ってたあの子たちが、今やドームツアーもやれるんですもの。感無量よ。母親みたいな気持ちになっちゃう。
「五年くらい?」
「――……。長い、な」
「そーね?」
せっかく来たんだから、普段着も新調しようかな。さきほど星嶋が進めてくれたカットソー、やっぱり買おうか。
「……亜嵐からは指輪は貰えねえのか」
「あー……、指輪は……」
指輪系のグッズは地雷だからなあ。公式もそのあたりは慎重になってるんじゃないかな。どこかのチームで『エンゲージリング★』なるものを出したみたいだけど、その後彼女が発覚して炎上してたからなあ。まあ、亜嵐くんが指輪出したら、高額商品でも買うけど。
「いや、悪かった」
「ううん。多分それはないと思うし」
なんとなく、ぎこちない雰囲気になる。そんなに気にしなくて良いのに。
ふと、気まずさに目を逸らした先にあったジャケットが、目に入った。体格が良かったら、絶対にカッコよくなる。亜嵐くんとかが来たらもう、最高。思わず妄想しかけて、横にいる星嶋を思い出す。
「ねー、これ羽織ってみて」
「あ? 良いけど……」
言われるがままに、その場でジャケットを羽織る。フォーマルな雰囲気も似合うじゃない。
「わー、カッコ良い」
素直に褒めると、星嶋は照れたように頬を少し赤くした。ふんふん、このジャケットの前部分が少しキツそうだけど、それがむしろ良い気がする。色気が増すというか、なんというか。
正面に回って、じっと星嶋を見上げた。
「な、なんだよ」
「身長、183くらい?」
「え? ああ、そうだな……」
「やっぱり! 亜嵐くんと同じだ」
亜嵐くんが着たら、こんな感じかな。思わず顔を緩めるおれに、星嶋は逆に顔を顰めた。ムッとした顔のまま、無言でジャケットを脱いでしまう。
「あ」
「俺のは良いから、さっさと選べよ」
もー。ケチ。
まあ、こんな場所じゃ抱き着いたり出来ないしな。あとで妄想ハグさせて貰おうかな。亜嵐くんとは握手は出来るけど、ハグは出来ないもんねえ。
(ああ、でも)
キスされたり、セックスした時に亜嵐くんを思い出したことは一度もないから、妄想は難しいかもしれない。近づいたら、星嶋の匂いがして、少し切なくなってしまった。
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