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41 好きの雨 

 信じられない。夢みたいだ。現実感が無さすぎて、ふわふわしてる。  ベッドに横たえられ、頬に耳に、首筋に、キスの雨が降る。 「ん、ふ……、ね、夢じゃない?」 「夢なわけねぇだろ」  口調は荒いが、芳の声は優しい。 「夢なら、覚めたくないな……。ね、芳……」  チュッと音を立てて、唇にキスをされる。いつも以上に甘やかな雰囲気に、胸がドキドキしっぱなしだった。 「夢じゃねえから、明日も明後日も、ずっと一緒だし、何度だって好きだって言ってやるよ」 「っ……! もう、ホントに100点なんだから……」 「なに言ってんだか。言っておくが、俺だって、半信半疑なんだぞ」  芳が顔を近づけてそう言う。 「お前が、ずっと他のやつと付き合ってると思ってた……」 「そう、なの?」  芳がどうして勘違いしたのか、良く解らないんだよね。 「だって、悠成みたいな美人が、相手がいないとか思わないじゃねえか」 「え」  初めて聞いた言葉に、驚いて顔が熱くなる。美人だなんて、そんな風に思っていたんだろうか。 「そ、そんなの初めて聞いたけど……?」 「恥ずかしくて、言えるかよ……。お前、自覚無さすぎだろ」 「そ、そう?」 「お前寮内で――」  芳はなにかを言いかけ、唇を閉ざした。むすっと結ばれた唇に、目を瞬かせる。 「え? 何? なにかあるの?」 「言いたくない……」 「ちょっと? も、もしかして、悪口……」  うわあ、そうなんだ。おれ、悪く言われてたんだ。ドルオタのゲイなんて、気持ち悪いって思われてたんだ。  うるっと泣きそうになるのを、芳が慌てて否定する。 「違うっ。逆だっ」 「逆……?」 「良輔にも、言われただろ? 悠成に憧れてるやつ、多いんだよ。高嶺の花なんだ」  そう言えばそんなようなことを聞いたきも……。  芳の手が頬を撫でる。 「お前の肌、すごく白くて滑らかで、触ってると気持ち良い。唇も、甘そうで、食いたくなる」 「っ、芳……っ」  恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。そんな、そんなこと。 「お前なら良いかも、なんてたちの悪い冗談言うやついるってのに、ゲイだって? ふざけんな。ここ、男子寮なんだぞ」 「え? 芳、怒ってる?」 「焦ってんだよ。他のやつに、狙われたくない」 「そんな、心配……」  しなくても。おれはそういう目で見られたことないけどな? 「鈍感で助かる」  ちゅ、と唇にキスされ、髪を撫でられた。  鈍感、というほどでもないと思うけど。うーん。  首を傾げるおれに、芳は真顔になった。 「いや、鈍感というか、周りに目が行ってないんだな。お前、亜嵐くんで一杯だったもんな」 「そ、そんなことないよ? 今は、芳のことばっかり考えてるし……」  推し活に夢中だったのは否定出来ない。今は芳も推してる。 「もっと周りに目を向けた方が……」 「向けなくて良い」  キッパリ否定され、思わず笑ってしまった。 「お前は、俺だけ見てりゃ良いよ」  唇が重なる。今度は、深く。 「んっ……」  舌がぬるりと絡み合う。今まで何度もキスしたはずなのに、今日は格別な味がした。ドキドキして、心臓の音が芳にまで聞こえるんじゃないかと思う。 「芳……、んぁ、んっ……」 「悠成……、好きだ。好きだよ」 「あっ!」  ビクッと肩を揺らし、舌が痺れるような快感に思考がくらくらする。好きだと言われるだけで、身体が熱くなって仕方がない。 「触って、良い?」 「ん……」  小さく頷くと、芳はシャツのボタンを外して、胸に手を滑らせた。心地よさに、瞳を閉じる。乳首を指先が弾くのに、甘い声をあげた。 「あっ、ん」 「悠成のここ、可愛いって知ってるの、俺だけなんだな」 「っ、ばか、んっ……」  恥ずかしいこと言わないでほしい。真っ赤になって睨むが、芳には効果がない。唇を乳首に寄せ、ちゅうっと吸われる。舌先がチロチロと先端を舐める。もう片方の乳首を 指がくにくにと摘まんだ。 「あっ、はっ……ん」  愛撫に、ゾクゾクと背中がしなる。乳輪を丹念に舐められ、歯が軽く尖端を噛む。甘い刺激と強い刺激を交互に与えられ、自然と身体が揺れ動いた。 「あっ、は、はぁっ……、っん」  身体が熱い。蕩けてしまいそうだ。  芳の唇は鎖骨や首筋、胸や腹を愛撫しながら、赤い痕を着けていく。白い肌に無数に付けられた痕跡は、芳にマーキングされてるみたいだった。 「腰、浮かせて」  言われるままに腰を浮かせる。ズボンを下着ごと脱がされ、丸裸にされた。いつもより恥ずかしいのはどうしてだろう。もう、全部見られているのに。  思わず身体を隠すように捩ると、芳はくく、と笑って、自分も服を脱ぎ捨てた。 「あ、ダメ」 「何が」 「芳が……。いつもより、カッコいい」 「ぶはっ。笑わすな」 「だって」  本当なんだもん。芳って、こんなにカッコ良かったっけ。好きだって自覚したら、カッコ良くて、愛おしくて、堪らない気持ちになる。 「芳は……、特別みたい」 「っ――可愛いこと、言うなよ……。メチャクチャにしたくなる」 「して、良いよ……。芳なら……」  芳がゴクリと喉を鳴らす。脚を押さえつけられ、芳が顔をかがめる。 「えっ?」  半勃ちの性器を、芳の口がぱくんと咥えてしまった。驚いて思わず腰を引く。 「あっ! 芳っ……!」  熱い感触に包まれ、びくんと身体を震わせる。舌をぬるぬる這わされ、ちゅうっと唇が吸い上げるのに思わず喉を仰け反らせる。直接的な快感と、芳がしているという罪悪感と背徳感に、頭がどうにかなりそうだった。  芳は口での愛撫を行いながら、アナルに指を這わせる。にゅるりと指が挿入され、中を愛撫される。前と後ろを同時に弄られ、堪らず身体を捩る。 「いぅ、っあ、あっ!」  じゅぷじゅぷと音が鳴る。耳までいやらしい音にやられて、体中真っ赤になった。  やがてぬぽっと、唇から性器が離れる。ぬらぬらと濡れた性器が勃起したままいやらしく光っているのが恥ずかしい。同時に、後ろからも指を引き抜かれる。 「可愛いな、悠成……」  そう言って、芳が猛った自信をアナルに押し当てた。ドクドクと、心臓が鳴る。何度も貫かれたのに、緊張して、興奮して仕方がない。芳が、芳が、おれを好きだったなんて。 「芳……、好き」  蕩けるような告白に、芳がぐっと息を詰まらせる。 「俺も――好きだ、悠成」  ずぷっ、性器が肉を割って押し入ってくる。芳が、おれの中に。  身体だけでなく、心まで一つになれるような気がして、心臓と下腹部がきゅうきゅうと鳴った。 「あっ。あ――っ」  挿入されただけで気持ちよくて、ビクビクと身体が震える。芳はハァと荒い息を吐いて、大きく身体を揺さぶった。 「あっ。あ、あっ、んぁ」 「悠成、悠成っ……」  何度も名前を呼ばれ、首に腕を回す。愛おしくて、堪らない。  自然と顔を寄せ、何度も啄むようにキスを繰り返す。甘くて、切なくて、酷く愛おしかった。 「はっ、ん、あっ、ああっ……!」  腸壁を擦られ、芳の背中に爪を立てる。  この男が、おれのものなのだ。おれの、芳。  二人何度も唇を重ね、名前を呼び合い、殆ど同時に精液を放った。

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