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『金平糖の君』1

「──ほら、眞ノ助。私だけの『大事な人』だよ」 何の変哲もない、本当に何にもないある日のことだった。 退屈そうに本を読んでいる眞ノ助の部屋に、祖父が訪れた。 祖父は、この家の唯一の跡取りであるからかなのか、そうではなく、孫だからなのか、とにかく眞ノ助のことをかなり可愛がってくれた。 実の両親からもらえなかった愛情をその倍に与えてくれるし、欲しい物を何でも買ってくれるのもあって、眞ノ助はすぐに祖父に懐いた。 本当は、両親にしてもらいたいことなのだけど、と密かに思いながらも。 「おじーちゃん。どうしたの」 「私と出かけに行かないかね」 眞ノ助に笑いかける祖父を見て、ぱぁっと輝かせた。 「うん! 行く!」 読んでいた本を開いたままに、そそくさと祖父の方へ駆け寄ると、皺が目立つ、だが、大きな手を握った。 廊下に出た際、すれ違いざまに二人に一礼をする使用人に眞ノ助と出かける旨を伝える祖父のことを見上げながら、胸を躍らせていた。 今日は何を買ってもらおうか、それとも、お腹いっぱいに食べようか、どこに連れて行ってもらえるのだろうか。 先日行った先での出来事を振り返りながら、自然と頬が緩むぐらい表情がにこやかであった。 「今日はね、眞ノ助に見せたいものがあるんだよ」 お抱えの運転手の車に乗って、他愛のない話をしていた矢先での会話だった。 まるで、子どもがとっておきの宝物を見せるような口ぶりに、眞ノ助は小さな首を捻った。 今日は誕生日でもなんでもない日。だとしたら、新しいペットであろうか。 一目見て可愛いと飼ってくれたペットの数々。 文鳥は餌をあげている時、指を噛まれ、そばにいた側仕えがどこかにおいやったり、金魚はあまりにも地味ですぐに飽きたのもあり、飼ったことすら記憶が朧気で、猫も飼っていたが人の言うことを全く聞かなく、祖父が買ってくれた玩具の数々を荒らしたこともあり、文鳥と同様、それ以来眞ノ助の前には姿を見かけなくなった。 しかし、最期まできちんと飼えたことのないというのに、目移りが激しい眞ノ助にとっては、それらは些細なことであった。 今はただ、目に映ったものを責任なく飼うだけ。 それにしても、祖父は何を見せてくれるのだろう。 そのことを率直に訊いてみても、「あとでのお楽しみだ」とにこにこ笑うだけで、それ以上のことを言わない。 早くそのことが知りたいのに。 「ふーん、そう」と興味が失せた眞ノ助は、つまんなさそうに外の景色を見やった。 橋を渡っている最中の車の下には、大きな川が流れていた。 ここからでは当たり前のように何がいるのか分からなく、ただ濁っているように見える川が広がっており、土手に目を向けると、数人走り回っているのが見えた。

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