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『金平糖の君』2
そうしているうち、まばらに行き交う車を見ていると、橋を渡り終え、そしてこれもまたまばらな、眞ノ助にとっては小屋同然の平屋を退屈そうに見ている時、そこで車は停まった。
「眞ノ助。降りるよ」
「こんな汚い所、ぼく、行きたくないよ」
「そうだね。でも、ここに私が見せたいものがいるから」
いる?
さっきは、「ある」と言い方をしていたようなと思っていると、眞ノ助側の扉を運転手が恭しく開いたことで、その疑問は、そちらに意識を向けたことにより、すぐに消えた。
車の中でも見え、言っていたが、改めて見ても、こんな所に人なんて住んでいるのだろうか。
続いて降りてきた祖父の手を繋ぎ、「行ってらっしゃいませ」と背後で深く頭を下げる運転手の声を聞きながら、「こっちだよ」と言う祖父の声を聞き、仕方なしに共に歩く。
平屋が連なった所へと足を踏み入れると、車から見ていた景色が眼前と迫った。
祖父よりかは背が高いものの、建物の壁には穴だらけで、窓も修正した箇所がはっきりと分かる、つぎはぎだらけであり、時折、その中から虚ろな目をした、幽霊同然の女性と目が合ったような気がして、途端、背筋に冷たいものを感じ、祖父の物陰に必死に隠れ、やり過ごそうとしていた。
「ねぇ、おじーちゃん。早くこんな所から出たいよ」
「あともう少しだから」
いつもと変わらぬ調子と穏やかな笑みをする祖父とは打って変わって、眞ノ助の心は、底知れない恐怖と不安でいっぱいになった。
こんなお化け屋敷のような場所にいつまでもいたら、頭がおかしくなりそうだ。それにさっきから鼻が曲がりそうなぐらいな異臭は何なんだろうか。その"何"を知りたいが、知ったら後悔しそうだと思い、ともかく早くこの場所から離れたかった。
自分だけでもどこでもいい、逃げてしまいたいと繋がれている手を解こうとした時。
祖父が他のと変わらぬ平屋の玄関らしい扉を開いた。
立て付けが悪いらしい、ぐっと手に力に入れているようだった。
玄関側はとにかく薄暗かった。昼間のはずなのに、一筋も光が差さず、目を凝らせばどうにか見えるぐらいの暗さであった。
「清志郎だ。入るぞ」
そう言って、躊躇することなく入っていくのを、「怖い」と言って、祖父を引き止めた。
「大丈夫だよ。この先に見せたい人がいるのだから」
「……ひと?」
また言い換える祖父の言葉を繰り返したのを、祖父は頷いた。
「そうだよ。私だけの人を眞ノ助にも見せたいんだよ」
でも、どうしてぼくを。
その疑問を口に出すが前に、有無を言わさず、祖父がなかば強引に手を引っ張り、中へと入れられた。
入ってしまった。
足元の暗闇が誰かがまとわりついている気がしながらも、平然と下駄を脱ぎ、上がろうとする祖父に続いて、恐る恐る靴を脱ぎ、床に足を置いた。
ぎしり。
やたら響く床板にビクッとさせている眞ノ助を、さほど気にしてないらしい祖父は、修繕した箇所のあるボロボロの障子を開いた。
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