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夏の風物詩と。1
それから伊東は、"友達"として接していった。
友達になる前の関係となんら変わらない伊東の言動に、判断は見誤ったかと思った。
けれども、眞ノ助がさほど気にしてない風を装っている、学級の人たちのあからさまな陰口に対して、それよりも大きな声で真逆の、何ともこそばゆい賞賛の言葉を言うのだ。
……恥ずかしくないのだろうか。
しかし、皮肉にも効果てきめんだったらしく、伊東と友人関係となる前と比べたら、雑音は少なくなってきたかのように感じられた。
眞ノ助が伊東のことをそうやって言わせているのだろうとも言われたが。
そんなこんな、その騒がしい者の言動に慣れてきた頃。
ぐっと暑く、伊東と同じくらいうるさい蝉の合唱が聞こえる季節へと移った。
テストを終え、眞ノ助にとっては長くとも短い夏休みを、少しでも学級の連中と会わずにも済むものだから、密かに楽しみにしていた。
「──佐ノ内君! 幽霊屋敷に行こう!」
身支度を整え、さっさと教室から出ようとした時、伊東が嬉々としてそう言ってきた。
「何を唐突に」
露骨に嫌そうな顔をする眞ノ助とは対照的に、いいものを見つけたと目を輝かせる小さな子どものような伊東と目が合った。
「だって今、ブームだよ? あの霊能者よりも先に、僕達で幽霊屋敷を見つけて来ようよ! というか、もう目星は付いているんだけど!」
「……ああ、そう」
伊東の家ではテレビを観る習慣があるようだ。そういえば、同級生らもそんな話をちらほら言っていたと思う。
もし、眞ノ助が流行に乗っていたとしても、その共通の話題が出来る人がいなく、加え、飽き性でもあるので、伊東のように何かに対する興味は失せていた。
「もしかして、怖いの苦手?」
「そういうのじゃない。ただ、僕の家はテレビを観る習慣がないんだ」
「え? そうなの? じゃあ、あの霊能者のこと知らないんだ?」
「はぁ、なるほど……」
驚きと納得で顔を上下に振りながら、目線を外していく。
ようやっと、興味が失せたか。
内心安堵をし、これ以上面倒事に付き合わされないよう、隙を狙って伊東から離れようとした。
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