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終わりの終わり
※亡骸描写あり
奥の、今となっては開かずの間と、侮辱の意味でも捉えられている部屋へと、一人の男が歩いていた。
手には、盆に乗せたご飯と味噌汁と漬物と、あともう一つ。
湯気が上がり、美味しそうな匂いが鼻腔にくすぐるのと同時に、悲痛に近い感情が出そうになる。
ああ、これもきっと口にせずに終わるのだろう。
口にするとしたら、これだけなのだろう。
端に申し訳程度に置かれた手のひらサイズの小袋を一瞥し、先へと赴いた。
渡り廊下を渡り、ある部屋の前へと来た時、その盆をその前に置き、この部屋の中にいる者に向かって、声を掛けた。
「坊っちゃん、朝食を持ってきましたよ」
そう言ってはみるものの、それに答えることはまずない。
きっと今も、想い人だった人に話しかけては、小袋に入った物を食べさせているのだろう。
そう思いながら、そっと襖を開け、中を垣間見る。
あの頃からだいぶ体つきが変わってしまった、表面上は仕えさせてもらっている主と、その主が抱きしめて離さない、朽ちかけている側仕えだった者。
生死を確認しろ、という旦那の命令であるため、一日一度、こうして確認をしているのだが、こうして心を殺してないと、こっちまでもが気を狂ってしまいそうになる。
そして、あの時、あのようなことを言わなければ良かったと酷く後悔に押し潰されそうなことも。
それは、その主の友人と名乗る同級生もそうだった。
あのことがあってから、数日後、わざわざ佐ノ内家に訪れてきては、主が学校に来てないことを心配してくれていたが、あのような様を見せるわけにもいかなく、ぼかして言ったのだが、何かを察してしまい、自分のように「……言わなければ良かった」と悲痛な面持ちで泣き出してしまうほどだった。
本当に。言わなければ。
この身に染みるような季節が終わるまでに、側仕えが朽ち果てるか、主が物言わぬ姿になるのか。
その瞬間《とき》を見送るのも、きっとこの自分なのだろう。
もう、人の儚く消え去る姿なんて見たくないのに。
少しでもその感情に触れないようにしようと、襖を閉じ、二人に背を向けて歩き出した。
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