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『金平糖の君へ』15

今までに見たことがなかった非現実なものに、寒さのせいではない、血の気が引いていくのを感じた。 なんなんだ、これは。何があったんだ。 それが、ぽた、ぽたと外の方へと染まっているのをどことなく理解し、それにつられて、ふらりと外へと出てみるが、すぐにその先が途絶えてしまい、この血の正体は何だったんだと思いながら、左右を見渡そうとした時。 塀にもたれるようにして、身動き一つしてない人を発見した。 ──いや、あれは。 「寂柳っ!」 雪に足を取られそうになりながらも、寂柳に駆け寄った。 「寂……──」 後ろへと倒れそうになる。 座り込んでいた寂柳の胸辺りには、先ほど門扉で見たものと全く同じのが、鮮やかに染まっていた。 じゃあ、さっきのあれは。 「寂、柳……」 膝から崩れ落ち、閉じられた瞳を見、震える手で頬を触った。 冷たい。 いつからこんな寒い所にいたんだ。何故、こんな所で眠っているんだ。 「寂柳……っ! 起きろよ! なんでこんな所で寝ているんだ! なんで主人より先に起きていないんだ! なあ!」 お前は今まで、僕が先に起きていた時もあっても、きちんと起こしに来てくれただろう。 なんでなんだ。 「なん、で……」 昨晩、すぐそばに感じていた温もりが何故、こんなにも遠くにいて、何故、こんなにも冷たい。 何故、初めて想いを告げようとした人は、動かない。 「寂柳……っ、寂柳……!」 お前の、優しくも穏やかで、時々からかうような声で、僕の名を呼んでくれ。 「呼んでくれ……、寂柳……」 抱きしめて、汚れるのを気にせず、胸の中で本当の名ではない、一目惚れした相手の名を呼び続けた。 そうしているうちに、段々と日が昇り、偶然にも歩いていた近所の人らがその異様な姿に、好奇の目で見ていたが、そのうち騒ぎを聞きつけて、慌ただしく使用人らが来たのも、当の本人は気づくことはなく、醒めることのない側仕えのことを呼び続けた。 側仕えであった者の手から、血に染まった金平糖が転がり落ちても。 ずっと、涙が、声が涸れても、ずっと──。

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