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『金平糖の君へ』14

ゆっくりと、目を開けた。 そして次に、寝返りを打ち、目を擦りつつも天井を見上げる。 今は何時なんだ。 眉を潜め、再び寝に入りそうになるのを堪えつつ、時計を探した。 ──その時になって、すぐそばに感じた温もりがないことに気づき、飛び上がった。 布団を丁寧に掛けられていたが、そんなことを気にしている場合じゃない。 「寂柳!? 寂柳!」 慌ただしい動きで周りを見渡す。 しかし、側仕えの姿は全く見当たらなかった。 閉じていた襖を開け放す。 外が薄明るく、夜中に降っていたのであろう雪が、地面にうっすらと積もっていた。 刺すような寒さに身を震わせながらも、渡り廊下に何か落ちていたことに気づく。 しゃがんで見てみると、それは金平糖であった。 あるはずのないものに最初は驚いたものの、それを手に取った時、夜中に柘榴が落ちていたことを思い出す。 それと同じ意味ならば、寂柳が安易に言葉に出来ない感情を抱いているのではと思った。 ようやく泣けた彼に、これ以上悲しい思いをさせたくない。 けれども、その彼はどこに行ったのか。 改めて金平糖を見てみると、端に向かって落ちていることに気づき、それを辿っていくと、その下に落ちていっていた。 裸足であることを気にせず、雪の上に降り立ち、雪を掻き分けると、ぽろっと金平糖が出てきた。 ここに出てくるとなると、寂柳は外に出たということになる。 「寂柳ー! 寂柳!」 白い息を吐いて、想い人の姿を探す。 どこに、どこにいるんだ。 自室の庭前へと周り、周囲を見回す。 すると、雨戸が開く音がした。 「寂柳!」 声を上げたが、顔を覗かせてきたのは、寂柳のことを悪く言っていた使用人の一人だった。 心底残念だと表情を見せ、すぐに目線を外し、走った。 「そんな格好で何をなさっているのです!」という声が背後から聞こえたが、構わずに走り出した。 本当にどこに行ってしまったんだ。 焦りと昨晩、あんなにも泣いたというのに、泣きそうになるのを堪えつつ、それを振り払うように慰めてあげた人の名を呼んだ。 そして、門の前へと来た時、思わず足が立ち止まってしまった。 開け放たれた門扉。その辺りは門扉によって、雪が掻き分けられていたが、そこには考えられないものがあった。 地面が、赤く染まっている。

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