110 / 113

『金平糖の君へ』13

涙声だと気づいた瞬間、頬に暖かい雫が伝う。 拭っても、拭っても流れ出る雫に、苛立ちを覚える。 寂柳に不覚に泣き姿を見せるのは、二度目だ。 「……坊っちゃま、私なんかのために泣かないでください」 「じゃあ、お前はいつ泣くんだよ! 僕が祖父のためにようやく泣けたと言ったくせに、お前は自分のためにいつ泣くっていうんだよ!」 涙が止まらない苛立ちに、何よりも泣くのを我慢している側仕えに腹を立てて、その怒りをぶつけにぶつけまくる。 何故、泣かないんだ。泣きたいのなら、泣けよ。主人である僕にこんな恥をかかせといて泣かないだなんて、どういうことなんだ。 泣きながら、思いつく限りの言葉をぶつけていた。 いつまでそうしていたか、頭がじんと痛み出した時、不意に、寂柳は下唇を噛んでいた口を開いた。 「……僭越ながら、坊っちゃま。……繋がったまま、坊っちゃまのこと、抱きしめていいですか……?」 「…………は?」 涙が一瞬にして引っ込んだ。 どういう意図でそのようなことを言ったかは分からないが、許可をすると、「失礼します」と断りを入れ、眞ノ助が感じてしまわないようになのか、ゆっくりとした動きで、眞ノ助の横に寝そべったかと思うと、そっと抱きしめた。 全身に感じる寂柳の温もりと、例のあの匂い。 やや匂いがきついと、むせてしまいそうになっていた時。 頭上から、小さく、本当に小さな嗚咽を漏らしている声が聞こえ、息が止まった。 寂柳……。 眞ノ助の思いが通じた喜びを噛み締め、体を震わす寂柳を慰めるようにその背に手を回すと、静かに泣き終わるのを待っていたものの、いつしか眞ノ助は、自分が知らぬ間に目を閉じてしまうのであった。

ともだちにシェアしよう!