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第7話

 日本に帰国して就職活動をするという選択肢は、早い段階で捨てている。  間近で駐在員の仕事ぶりを見ていて、自分には日本企業で仕事をするのは無理かもしれないと思うことが多々あったからだ。  それに就職氷河期真っただ中の日本に帰国して就職活動をしたところで、希望の職に就ける気はしない。  このまま中国で仕事をすることになるだろうが、このままずっとフリーの通訳でやっていくのは何の保証もないし、トラブルが起きた時の対処が危険だろう。  どこかに所属して派遣してもらう形がいいだろうか。それともやはり一度は企業に所属して経験を積むか……?  そんなことを考えているうちに伊藤の娘のアテンドは何事もなく終わり、孝弘はぞぞむに誘われて串焼き屋に行った。  そこで突然、ぞぞむから起業の話を持ち掛けられた。 「孝弘さあ、俺と一緒に会社やってみねえ?」  ぞぞむは炭火の上に、羊肉の串を何本も並べながらそう言った。  ぞぞむが中国で仕事をするためにあちこちで顔を繋いでいることは知っていた。起業するつもりだということも知っていた。でもそのパートナーに自分に声を掛けてくるとは思っていなくて驚いた。 「なんの会社?」 「中国雑貨の卸って感じかな。こっちで仕入れて、日本の雑貨店とかに販売する」  孝弘には工場との交渉や買い付けなどを一緒にやって欲しいという。  そして帰国前にレオンにもすでに声を掛けていて、経理方面の管理を担当してもらう予定らしい。  企業に就職してスーツを着て仕事をするのと、ぞぞむの会社で商品の買付や交渉をしているのと。どちらがより、やりたいことなのか。  ぞぞむの会社は成功すれば大化けする可能性があるし、もし失敗しても、悪い経験にはならないだろう。  ぞぞむはにやりと笑って言う。 「絶対、退屈しないから」  そうだろうなと思う。これから経済発展していくのが確実な中国での起業は、留学生の就職として悪い選択肢ではないように思えた。  孝弘はすこし考えて「やってみようかな」と答えた。  まったく予想外の話だったが、単純に「おもしろそうだ」と思ったのだ。どうせやるならわくわくする仕事がしたい。  これだけで生活できる収入になるかわからないから、通訳も続けていくことにする。稼ぐ手段を複数持っているのは、リスク軽減の点から見ても当然のことだった。  こうして仕事をしているうちに、いつか祐樹に会うことはあるだろうか。  思い出のなかの祐樹はスーツ姿で優雅に微笑んでいる。北京の事務所で見たスーツ姿は、孝弘の憧れの大人として記憶に残っていた。  自分はこれからどんな大人になるだろう。  この先の未来に祐樹と人生がクロスすることはあるだろうか。  祐樹と一緒に歩いた道を歩きながら、孝弘は思い出の祐樹と遠い未来に思いを馳せた。  完  ぞぞむと孝弘の起業についての詳しいいきさつは「あの日、北京の街角で3 遠距離の日々」に載っています。  ぜひご覧ください!(^^)!  ぞぞむはとっても好きなキャラです。もっと出してあげたいww  

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