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第6話

 香港には相互学習の相手だったサラも帰国していて、再会する予定になっている。  サバサバした明るい性格の女の子で、美人でとてもモテたが留学先では恋愛関係は求めていないのと公言していた。孝弘に対しても特別な感情を持たなかったので、男友達といるみたいな感覚でつき合いやすかった。  サラもレオンも友人たちを紹介してくれるというので、それも楽しみだった。  この夏はチベットへ買付けに行くというぞぞむも、8月には香港へ来ると言っている。みんなで香港で会えるなんてと思うとワクワクする。  でも何より孝弘の気持ちを波立たせるのは、香港は広州からすぐだということだ。  香港から広州へは列車も高速バスも走っていて、どちらも2時間から3時間ほどの距離だ。香港から切符を買って、列車かバスに乗るだけで着く。  途中で国境を越えるからパスポートチェックがあるが、中国の留学生ビザを持っている孝弘は広州に入ることができる。  会いに行こうと思えば行けるのだ。  でも広州に行ってどうする?  ただ広州の町を歩いて、ここで祐樹が仕事をしているのかと感じて、それで満足する? 偶然に会えないかと支社の近くに行ってみる?  ……いや、普通に気持ち悪いだろ、それは。  冷静に考えれば、北京からでも飛行機なら3時間半で広州に行ける。でも地図上で見る香港から広州の距離は、孝弘の胸をざわつかせた。  ほんの1センチもないのだ。  北京からは遠すぎると諦めていたけれど、香港からならすぐに見える。  ……いや、やっぱダメだろ。  突然、訪ねていくなんてありえない。そもそも会っても絶対に喜ばれることはない。アルバイトを続けていたことすら知らせてないのに。  北京支社でのアルバイトは続けていた。  最初の夏休みの孝弘の働きぶりを気に入った安藤が、冬休みにも声をかけてくれたのだ。夏休み同様、大趙が弟分のように孝弘の面倒を見てくれ、それ以来、途切れずにつき合いが続いている。  それ以外にも、他社の駐在員に紹介されてこうして家族をアテンドしたり、家族の受診つき添いをしたり、時には日本から出張に来る社員のフォローや通訳をすることもある。  すこし前から連絡先を渡すのに必要だから、通訳兼コーディネーターの名刺を作って持ち歩くようになっていた。 アルバイト感覚で始めたけれど、最近はほとんど仕事と言ってもいいくらいで、アテンドや通訳で知り合った駐在員から「うちの会社に来ないか」という正社員の打診も受けている。  なんだかんだであれこれと仕事を引き受けているうちに中国で暮らしていける程度の収入はすでに得ていて、この先、どんなふうに仕事をするか考える時期に来ていた。

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