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初恋の実り 2
「お母さん」
「あら想! 迎えに来てくれたの?」
「うん、荷物持つよ」
「ありがとう」
お母さんからの帰るコールに、薄いコートを羽織って外に出た。
お父さんからのFAXで胸が一杯で、心を落ち着けたくて。
「パン教室は楽しかった?」
「終わってから駿くんのお母さんも合流したので、盛り上がって遅くなっちゃった」
「駿のお母さんがいらしていたの?」
先ほどまで駿と抱き合っていたので、何だか胸がドキドキする。
「そうよ。今日から駿くんこっちで一人暮らしを初めるから、心配で見に来たみたい」
「えっ」
そうだったのか。
もしかして僕たちが抱き合っている時にいらしたのかと思うと、申し訳ない気持ちなった。
「これから寄るって言ってたわ」
「そ、そうなんだ」
「くすっ、あなたはちゃんと駿くんのお引っ越しお手伝いしたの?」
「あ……うん」
ベッドが組み上がった途端、カーテンも付けずに抱き合ったとは言えないなと、苦笑してしまう。
「ふふっ、楽しかったみたいね」
「お、お母さんも」
「駿くんのこと頼まれちゃった。『何かあったらよろしく』って」
「そうだね。もしも駿が風邪をひいたりしたら、すぐに駆けつけるよ」
そう伝えると、母が目を見開いた。
「想が駆けつけてもらう方だったのに。でもあなたは前よりずっとずっと丈夫になったから、そういう日もあるかもしれないわね」
「きっといつもお母さんが栄養満点の食事で支えてくれるからだよ。日本に戻ってきてから調子がいいんだ」
母が嬉しそうに目を細める。
「想はいつも嬉しいことを言ってくれるのね。そろそろ、少しずつあなたにもお料理を教えてあげないとね」
「え? 僕に?」
「あら、だって必要でしょう」
「お……お母さんってば。でも、そうだね、習いたいな。駿に作ってあげたいから」
「あなたは素直で可愛いわね、昔は女の子も欲しいと思ったけど、今は想がいてくれるだけで、本当に幸せだわ」
お母さんの言葉ひとつひとつが心に沁みた。
僕は両親からの愛情を一心に受けて成長した。
大人になって、しみじみと感謝している。
「お母さんにはラブレターが届いているよ」
「え?」
「実はさっきお父さんからFAXが来ていたんだ」
「えぇ? お父さんが? そんなことしてくれるの初めてだわ」
「だから僕たちも返事を書かない?」
「いいわね」
その晩はお母さんが焼いたふわふわな白パンに野菜とチーズとハムを挟んで食べながら、お父さんへのFAXをしたためた。
「風味がよくてふわふわで美味しいパンだね。このパンもお父さんにFAXできたらいいのに」
「まぁ想ってば、また子供みたいなことを」
「そうだよね。ねぇお母さん……僕たち、お父さんが帰って来たらしたいことが沢山あるね」
「そうね、それまではこんな風につながっていましょう。今、出来ることも沢山あるわ」
……
お父さんへ
想です。お仕事お疲れさまです。
お父さんからのFAXが嬉しくて、何度も何度も読み返しました。
このテレフォンラインは、お父さんと繋がっているのですね。電話の向こうに、お父さんの顔が、はっきり浮かびました。お父さんがそちらで頑張っている姿も、くっきりと浮かびます。
僕も毎日を頑張りたいです。
僕が社会人になる時にお父さんが僕に教えてくれた心得は、いつも僕の胸にあります。
仕事への責任感。感謝の気持ちの大切さ。時間を守って相応しい服装を心がけることの重要性。自分で課題を見つけてそれを解決していくという心構えが必要なことも……どれも今の僕の礎となっています。
お父さんをいつも尊敬もしています。
そしてお父さんの息子に産まれて良かったです。
お父さん、僕からもFAXをします。
三年間、沢山話をしたいです。
****
「駿、いるの?」
「げっ! 母さん」
想が帰ってから猛烈に腹が減ったので、即席麺をすすっていると母さんの声がした。
「まぁ、それが今日の夜ご飯?」
「へへ、引っ越し蕎麦だよ」
「何言ってんの? あなた料理はからきし駄目でしょ。身体を壊すわよ。さぁこれを食べなさい」
母さんが俺に渡してくれたのは、野菜がいっぱい入ったサンドイッチだった。
「すごく、旨そう! えっ! これ母さんが作ったの?」
「こんなお洒落なの作れないわよ。これは由美子ちゃんお手製よ」
「えっ、ってことは、今日、想のお母さんに会ってたの?」
「あら? あなたたちも会っていたんでしょ?」
「あ、あぁ、想はさっきまでここにいたよ。その、引っ越しの手伝いに来てくれたんだよ」
母はカーテンのついていない窓を見て、明るく笑った。
「ここ、いかにも想くんが好きそうな部屋ね」
「ま、まあな!」
「さぞかし喜ばれたでしょう?」
「ま……まぁな……って、母さん、俺で遊んでない?」
「ふふ、ただ息子の幸せなそうな顔が見たくて、寄っただけよ」
母さんの笑顔に、救われる。
本当にありがとう。
俺とこんなに明るい関係を築いてくれて!
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