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大切な人 4
「そうくーん、あーそーぼ!」
「うん! じゃあまずはログハウスに行こうか」
「わぁい!」
男の子の無邪気な声に、想は柔らかい笑顔で頷き、仲良く手を繋いでログハウスの方向に歩き出した。
想が先頭を切るなんて……
こんな所からも、想の成長を感じるよ。
その後ろを宗吾さんと瑞樹くんが、仲良く寄り添いながら付いていく。
兄弟も従兄弟もいない想が小さな子供の手を引くなんて、初めてだよな。
想のドキドキが伝わってくるよ。
想が初めて体験する新しい世界を、俺は全力で支えてやりたい!
それにしても坊やは、今、8歳か。
ちょうど俺と想が出会った年齢だ。
だからなのか、今日はいろんなことを思い出す。
さっきの懐かしい思い出には、まだ続きがあった。
あの日、想のベッドの中で『青い鳥』の絵本を読んでもらい、一緒に温かいミルクティーを飲んだ。俺の家にはない静かで温かい時間に、ふわふわした心地になってしまった。
だが、しばらくすると想が肩で息をし出した。
またしんどくなってきたのかな? そろそろ帰ったほうが良さそうだ。
そっとベッドから抜け出ようとすると、トレーナーの端を引っ張られた。
……
「どうした?」
「待って。あのね、さっきのもう一度言って欲しいな」
「何を?」
「……あーそーぼって」
想が赤い顔で訴えてくる。大人しい想の珍しいお願いだから叶えてあげたいけれども、本当に大丈夫かな? まだ遊べるの?
「でも……つらそうだよ」
「大丈夫だから」
「そう、あーそーぼ」
「あそびたい。もっとあそびたいよ。ぐすっ」
想はそのまま枕に顔を埋めて、肩を震わせてしまった。
「え? 俺が泣かしちゃったの?」
「ううん……ううん……うれしいのに悲しくて」
まだ小さな俺には、その感情がどんなものなのか分からない。
嬉しいなら嬉しいで、悲しいなら悲しいしかないと思っていたから。
想の気持ちを分からないことが、もどかしかった。
「想、それって……ええっと遊びたいけど遊べないってこと?」
「うん……もう眠たくて。昨日、発作でほとんど眠れなかったから」
枕から顔をあげた想が、寂しそうに教えてくれた。
「なんだ、そういうことか。じゃあ一緒に眠ろうよ。それから夢の中で一緒に、あーそーぼ!」
「ほんと? じゃあもう一度、おふとんにきて」
……
うぉ~! 思い出したぞ。
あれは……俺が初めて想と眠った日になるのか!
ベッドの中で想と向き合って、ぎゅっと手をつないだんだよなぁ。
「どこにもいかない?」
「ずっといる!」
目を閉じたら夢を見た。
おばさんが読んでくれた本の影響なのか、青い鳥を一緒に探す内容だった。
夢の中で青い鳥はやはり見つからなかったが、おばさんの「駿くん、そろそろ起きないと」という声で目覚めると、想が青いパジャマを着て座っていた。
「あれ? 想のパジャマ……さっきから、その色だった?」
「寝汗をかいたので、お着替えしたのよ」
おばさんが教えてくれる。
「駿、一緒にいてくれてありがとう。よく眠れたよ」
想がにっこり微笑んでくれた。
その笑顔は、眩しい程、キラキラしていた。
「想……本当に青い鳥みたいだ」
懐かしい思い出を一旦閉じて、俺は横を歩く想のお母さんに話しかけた。
「おばさん、俺にとって想は……今も青い鳥です」
「私もさっき小さな坊やが声をかけてくれてから、あのクリスマスの日を思い出していたのよ。毎日のように我が家にやってきてくれ、想に「あーそーぼ」と声をかけ続けてくれた男の子のことをね。想も私も聞きたかった言葉を、あなただけは……いつも贈ってくれたわ。だから私たちにとって、駿くんこそ『青い鳥』よ」
やがて視界が開け、森の中に佇むログハウスが見えて来た。
小川のせせらぎ、小鳥のさえずり。
爽やかな秋風が、紅葉した木々の間を通り過ぎていく。
ガサッと物音がしたので見上げると青い鳥が飛び立ったような気がして、目を擦った。
「あっ……」
おばさんが教えてくれる。
「大丈夫。あなたの青い鳥は、いつも傍にいるわ」
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