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絆 11
それから1週間、僕は若林さんとお父さんの病室に通い続けた。
一般病棟に移ってからのお父さんは日に日に顔色が良くなり、すっかり生気を取り戻していた。
銃弾が突き抜けたのは右脚大腿部で、もしも大動脈に命中していたら大変なことになっていたそうだ。傷は深くまだ右脚は動かせない。動かないかもしれない。いずれにせよ、長いリハビリ生活になるとの見通しだった。
だがお父さんの表情はいつも明るかった。お父さんは自分の状態を冷静に理解しているようだった。
「若林、私はもう大丈夫だ。傷口の経過も良好で、後はリハビリの日々になるだろう。だから君はそろそろ職場に戻れ」
「ですが……」
「君が一番現地に精通している。私達を頼りにしている人が大勢待っているんだ。私の分も頼む」
若林さんはまだ離れたくないようで、手をギュッと握りしめ硬い表情になってしまった。
「俺は白石さんが無事に日本に帰国されるまで、付き添う覚悟だったんです」
「もう大丈夫だよ。後は息子に任せようと思う」
えっ、お父さんが僕に任せると?
その言葉に驚いてしまった。
お母さんのことは託されたが、お父さんのことまで任せてくれるのですか。
「そうですね。想くんは語学も堪能でアラビア語も多少出来ますし、ここでも病院スタッフと積極的に会話してくれるので助かっています。本当に頼りになりました。では俺は早速現地に戻り、白石さんの分もしっかり働いてきます」
「あぁ若林なら出来るよ。どうかくれぐれも気をつけて」
「はい!」
「頑張れ! 私も頑張るから」
お父さんの決断は潔かった。
お父さん……カッコいいです。誇らしいです。
若林さんは早速日本の本社と連絡を取り、翌日には現地事務所に戻ることになった。
早朝、僕は若林さんをホテルの正面玄関で見送った。
「想くん、じゃあな」
「若林さん、ここまで僕を連れて来て下さってありがとうございます」
「それは俺の台詞だ。想くんがいなかったら、どうなっていたか。俺は俺が出来ることをしたまでさ。君に出逢えて良かったよ。実は……俺の息子の名前「聡一《そういち》」って言うんだ。だから……きっと白石さん、君と息子を重ねていたんだろうな。白石さんの想くんへの愛情の深さを目の当たりにしてしみじみと感じたよ。お父さんと日本に無事に戻れるよう引き続き祈っているよ」
若林さんとガシッと握手をした。
男同士の約束だ。
「父と日本に戻り、母と会わせるが僕の使命です。あの……お父さんは名前に関わらず本気で聡一くんの心配をしていたと思いますよ。お父さん、とっても優しい人なんです」
「あぁそう思っている。君のお父さんはすごいよ。逞しくもあり細かな所にもよく気付いてくれる人だ。想くんのきめ細かい優しさの影響かな?」
「そんな……僕は……」
「親だって子供から学ぶことがあるんだよ。おっと時間だ。想くん、元気で! You can make it !」
僕にも出来ることがあるのか。
若林さんを清々しい気持ちで見送り、再びお父さんの病室に向かった。
中東の国で暮らすのは、アメリカや英国のようにスムーズにはいかないが、だいぶ慣れてきた。即席だが空き時間にアラビア語も学び、コミュニケーションも取れるように努力した。
お父さんの右肩になりたくて。
お父さんに、早く会いたい。
親子の会話がまた出来る。
今まで当たり前に思っていたことに、感謝する!
「お父さん、想です!」
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