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第2話
「なんでって、美奈子さんに入れてもらったからに決まってるだろうが。勝手に入ったら不法侵入だ」
しれっとした顔でそう言う昂平がムカついたけど、正論だったから俺は矛先を変えた。
「かーちゃーん!!コイツを勝手に俺の部屋に入れんなって何回も言ってんだろ!!」
そう叫んだら、階下から声が飛んできた。
「ちょっと理音!!まだお父さんと花音が寝てるんだから静かにしなさい!!何時だと思ってんのよ!!コーヘイ君が部屋に入るとか今更でしょうが!!」
「……美奈子さんも大概だな」
「何笑ってんだよ。ってもうこんな時間!?あ、朝練……おまえ先に行ってろ!」
「待ってるから、早く準備してこい」
「チッ」
意味のない舌打ちをして、俺は昂平を部屋に残すと慌てて階下に降りていった。
まだ時刻は朝の5時で、母は毎朝俺の弁当と朝飯を作ったらまた寝直す。会社勤めの父も、小学生の妹もまだ夢の中だ。多分。
走りながら服を脱いで浴室に飛び込む。まだ半分寝ぼけている頭をシャワーでしっかり覚ましたあとは、顔にローションをはたき髪をドライヤーで乾かす。そしてダイニングテーブルに用意されていた朝食を5分で食べて、歯磨きへと直行。
そんなバタコさん状態の俺に、母はため息をついて呆れたように言った。
「毎朝毎朝嵐のようね、理音。もーちょっと早起きしてなんとかなんないの?足音もうるっさいのよ」
「無理無理っ!日本一忙しいコーコーセーに対して何言ってんの、かーちゃん!」
「だったら部活なんて辞めなさいよ、朝練なんて参加しなくてもいいんでしょアンタ、コーヘイ君と違ってレギュラーじゃないんだから」
「う……」
母の言うことはもっともだ。
でも。
「……放課後は忙しいから、朝練くらいはしないとトレーニングになんないだろっ」
ただの下手な言い訳だ。
「トレーニングねぇ……」
また足音をバタバタさせて部屋に戻ると、昂平は俺のベッドに横たわって雑誌を読んでいた。 やけに真剣な顔で。どのページを眺めているのかは、見なくても分かってる。
俺は気にせず制服を着込み、学校へ行く準備が完了した。
「行くぞっ、昂平!」
昂平は俺の言葉に反応して、顔を上げた。
そしてマジマジと俺を見つめると、
「雑誌から抜け出してきたみたいだな、理音」
なんて、馬鹿みたいな発言。
「服装が全然違うだろ」
「まあな」
「それより早く行くぞ!エースが遅れたりしたら補欠にやっかまれんだろーが!」
「お前がやっかむのか?」
「はあ?」
確かに俺は補欠だけど、なんで俺がお前をやっかまなきゃいけないんだよ、馬鹿。
この後もうだうだ言いながら、俺たちは俺の家を出た。
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