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第6話
*
俺、犬塚昂平の朝は、いつもケータイの目覚ましアラームより先に始まる。
がばっと思いっきり身体を起こし、まだ眠っている母を起こさぬよう、静かに歩いて浴室へと向かう。
シャワーを浴びて学校へ行く準備を整えると、簡単な朝食を用意して(パンを焼いて、お湯で溶かすタイプのスープを作るだけだ)黙々と食べる。
起きてきっかり30分後、母が昨夜のうちに作ってくれていた弁当を持ち、俺は初めて声を出した。
「母さん、朝練行ってくる!」
2階の部屋から、眠そうな声で「いってらっしゃい~……」とかろうじて聞こえた返事に満足し、俺は家を出た。
今から俺が所属するバレー部の朝練に向かうのだが、その前に寄るところがひとつ。
ピンポーン
呼び鈴を鳴らすと、俺が来ることは予測されていたようで3秒後にドアが開いた。
「おはよう、昂平くん!いつもいつも理音を迎えに来てくれてありがとうね、あがって」
俺を迎えてくれたのは、幼い頃から俺の母同様に俺を見守りながら育ててくれた人。
「おはようございます、美奈子さん。理音はまだ寝てます?」
幼なじみの母親である、美奈子さんだ。
「ええ。昨日は撮影が長引いて帰りが遅かったから。そのあと勉強してて、だから寝たのは日付が変わってからじゃないかしら……」
美奈子さんは呆れるように溜め息をついた。正直、その気持ちにはかなり同意できる。
だから俺までつられて溜め息をつきそうになったけど、慌てて繕った。美奈子さんの気持ちには同意できるけど、俺はあいつの味方でいてやりたいから。
「仕事とかぶって部活にあんまり参加できないから、せめて朝練には出たいとか理音らしいです。俺、起こしてきますね」
「なんであんなヘトヘトになってまで部活やりたがるのかしら、あの子。ホント、男の子っていくつになってもよくわかんない……図体ばっかりデカくなって。あ、昂平くんはいいのよ!レギュラーなんだからでかくても!さ、上がってアイツ起こしてあげて!」
「はい、お邪魔します」
勝手知ったる他人の家、と言うんだろうか。
俺の足は迷いなく、幼なじみの理音が寝ている二階の部屋へと向かった。
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