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第7話

 俺と理音は母親同士が親友で、幼い頃からしょっちゅう一緒に過ごしてきた。 理音はとても可愛い顔をしていて、幼稚園から小学生まではしょっちゅう女の子に間違えられていた。 『りおちゃん』 『こーちゃん』  小学生の低学年まではそんな風に呼びあっていた。俺の母親が理音をりおちゃん、と呼ぶものだから俺もそれに倣っていたのだが、理音の性別も勘違いしていた気がする。  性別とかそんな概念がまだないときも、理音は俺とは違う生き物だと思っていた。 チンコがついてるのも知っていたのにも関わらず、だ。 『理音』 『昂平』  名前呼びに変わったのはいくつの頃からだっただろうか。 今は身長も伸びて、部活のおかげでそれなりに筋肉もつき、理音はどこから見ても完璧なイケメンに成長した。けど、俺にとっては今でも可愛い理音そのままだ。 そんなことは死んでも言えないが。  俺の父親は刑事だった。 何故過去形なのかというと、俺が小学生の時に死んだから。殉職だった。  俺と母を残して先に逝ってしまった父に色々文句を言いたい時期もあったが、母がそれを許さなかったので思ってるだけで言ったことはない。言ったところでどうしようもないことは、小学生の俺でも分かっていたから。  葬式では俺より理音の方が大泣きしていて、美奈子さんを困らせていた。  俺は、刑事だった父にずっと憧れていた。弱きを助け、悪を挫く、正義のヒーロー。 刑事であることに誇りを持ち、忙しくてなかなか遊んだりはしてもらえなかったけど、自慢の父だった。 だから俺も父のようになりたくて、幼稚園の頃よく近所のクソガキに苛められていた理音をずっと助けてきた。 『こーちゃんありがとう、こーちゃんはぼくのヒーローだよ!これかりもずっとそばにいて、ぼくをたすけてね』 『あたりまえだよ、ぼくはりおちゃんがだいすきなんだから!けっこんしてくれるでしょ?』 『うん、する。けっこん…する!』  ガキだったとはいえ、本気で理音に結婚しようとのたまっていたことは正直かなり恥ずかしい。 理音は自分とは違う生き物だと思っていたから、好きだから結婚するのは当然だと思い込んでいた。 俺と理音は、大人になったら父と母のようになるのだと。  理音が忘れてくれているのが幸いだ。 忘れている、と思う。じゃなきゃ恥ずかしすぎて死ぬ。 ガチャ 「…理音?」  見慣れた部屋のベッドの上には、その幼なじみがすうすうと寝息を立てて寝ていた。 俺はゆっくりと近づき、そっとベッドの上に腰かける。至近距離で顔を覗き込んでも、起きる気配は全くない。  理音は、決して女っぽいわけじゃない。 けど、色白で線が細くて睫毛が長くて、男のくせに寝起きのヒゲも生えてない。茶色に染められた髪はふわふわつやつやしていて、薄く開けられた唇は薄いけど形がとてもいい。 『綺麗』という言葉が、理音にはこの上なく似合う。  このまま、キスしてやろうか。きっと理音は起きないだろう。 『好きだ』と耳元で囁いたら、夢の中に俺が出てきたりするんだろうか。 好きだ、理音。 好きだ。 ―――言えるわけない。  同じ性別の幼馴染に対する、心の奥にぎゅっと押し込めているこの想いを伝えてしまったら、俺達はどうなるんだろう。 その答えは、考えなくても明白だった。 「おい理音、そろそろ起きろ」 臆病な俺は、キスも囁きもせずに幼なじみを揺り動かした。 「んぅ…こーへい…?」 寝起きの色っぽい声に俺はドキドキする。びっくりさせようと思って、顔を近づけた。 「…起きないとキスするぞ」  あくまで、冗談のスタンス。 これが、俺が今できる理音への精一杯の愛情表現だ。そんな表現自体、したらいけないんだけどな。 でもこんなにそばに居る以上、それもできなくて。理音が可愛すぎるから。 ぱっちりと大きな目を開けて、動揺して叫び出す理音に、俺はくくっと笑い満足した。

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