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第9話

 別に理音が同じところに合格したっていい。俺は他の高校にも滑り止めで受験していたから、そっちの高校に行けば済む話だ。何も絶対、そこに行きたかったわけじゃないし。ただ家が近かっただけだから。 でも。 『昂平、おれ、合格したよっ…!これで昂平とまた三年間一緒に居られる!良かった、ほんとに良かった…!!」  理音は泣きじゃくりながら俺にそう報告して、抱きついてきた。きっとその言葉は、本心から出た言葉だろう。 いつも素直じゃなくて、ひねくれたことばっかり言う理音がそんな態度をとるものだから、可愛すぎて目眩がした。その場でキスして押し倒そうかと思った。 理性を総動員して押し倒すのはとどまったが、理音を引き離すのは無理だった。 そして俺自身も、理音と離れるのがこんなに嫌だったなんて、その時まで気付かなかった。理音への想いが、ここまで大きくなっていたなんて。 『良かった…おめでとう、理音…!』  俺は理音を思いっきり抱き締め返した。格発表の場だ、同性で抱き合ってても不自然じゃない。たぶん。 それに、こんな風に抱き締めれるのはきっとこれが最初で最後だ。そう思って、きつくきつく抱き締めた。 『ちょっ、昂平…離せばか!!痛い!』  その後、我に返った理音に剥がされたけど…自分から抱きついてきたくせに。 首まで真っ赤になっていたのは、俺に抱き締められたからじゃなくて、自分の行動が恥ずかしすぎたからだろう。素直な理音なんて、一体何年ぶりに見たことか。 あの時の感触…いや、感動は忘れない。 忘れられない。 俺は、理音が好きだ。 誰よりも好きだ。壊したいくらいに……。 どうして一瞬でも離れようと考えたんだろう。 理音から離れるなんて、もう、無理なのに。

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