そもそもほとんど友達がいない僕。家に呼ぶ程の友達は今は明希くらいで、お互いの家に行き来して一緒に勉強したりしている。 だけど母親も明希の事はよく知っていて＂友達＂なんて表現で言わない。だとしたら、、誰が部屋に？ 　下から見上げ階段がとても長く遠くまで見える。濡れた服か気持ちのせいか足が重く一歩一歩ゆっきり上がっていく。 ドアの前で深呼吸をして、耳に当てて中の音を中の様子を伺っている。猫の鳴き声が聞こえてくるがそれ以外は静かだ。 　恐る恐るドアを開けてみた。見えた背中は初めて見るけど見覚えある背中、、髪型髪色、、そう画面の中で見た姿だ。 　 　『……………えっ！？』 少し考える時間が必要で変な間が空いた。声を出した僕に気付いた彼は振り向いて目をバチっと合わせた。 　「ん！？あはっ。どうもこんにちは」 そう言ってベッドの上であぐらをかいて愛猫を撫でながら言った。あまりに唐突な出会いに不信感を抱く隙間もない。 　『、、あのー…えっと……どうして』 　「名前は！？」 　『えっ、あっ、、名前はー…滝川、、』 　「じゃなくて！ね〜こ！猫の名前だよ。君の名前は知ってるよ。暖くんでしょ？あっ！こらっ！引っ掻いたなっ」 　僕と彼の温度差は一目瞭然だ。彼はもうこの家に何度か来たかのようにくつろいで、猫にもイケメンの区別がつくのかメスの愛猫も完全に懐いて離れない。 普段はキッチンくらいにしかいない猫にも好かれるような彼はやっぱりあの人だよね、、？ 　『すいませんけど、、どなたですか？ここで何を……』 　「そんなところいないで入ってきなよ」 ドアの前に立ち尽くした僕に言った。じぶんのへやなのに完全に主導権を握られてる。隣の部屋の陽に聞かれても困るし中に入ってすぐにドアを閉めた。 『いや、ここの僕の部屋なんですけど……』 　「俺は樫井 大我(かしいたいが)。これからよろしくね」 　『はぁ……それで僕に何か、、様ですか？』 　名前を聞いてあの配信の本人と確信は得たけど、言ってる＂これから＂の意味がわからない。しかもどうして僕とわかって家も知って会いに来たのか疑問だし目的もわからずそう思うと怖い。 　「ふーん。思ってたより若いし地味だねっ」 近づいて爪先から頭までまじまじと見られたかと思えば僕の目にかかった前髪にそっと触れて顔を首を傾げて覗き込む。 　『や、辞めて下さい！それより、ぼ、僕の質問に答えて下さい、、』 　瞬時にバッと離れて距離をとった。実物の彼は画面のはるか何倍もカッコよくてキラキラ王子様で男の僕でもこの至近距離は耐える自信がない。初めて会った人にこんな事するとか僕には考えられない。 　「あー！来た理由？うーん、スカウトって言うかテストっ言うか。まぁ単刀直入に言うと恋人試験に合格です！おめでと〜！」 　『はあっ！！！！？なんですかそれ！』 　「君でしょ？スイーツ投稿してた＂|HAL《ハル》＂って。だけどアカウント消したよね？何で？」 　『それはー…も、もう投稿に飽きたからっ。それ以外に理由はありません』 　 　「そうなんだ。で、最後の投稿覚えてる？」