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懐妊 13

碧人は自分がそのような身体ではないから、そんなことが言えるのだ。 一人ではない、二人分がほぼ同時にそのような反応を、腹の内側からしてくるのだ。嫌でたまらないのに、それでコミュニケーションを取れと言う。 けれども、これで反抗したら、碧人からもらった大切な物を取られ、一生愛してもらえなくなる。 それはいやだ。 「…………っ」 二人のせいで圧迫されている心臓が、さらにドクドクと鳴っているのが耳まで聞こえているように感じ、緊張で喉の渇きを覚えていながらも、蹴ってきたことにビクついた後、碧人に促されながら共に自身の腹部を撫でた。 ポコっというような、返事代わりの蹴りをまた入れてきた。 「……ぁ……」 「二人が葵のことに反応してくれたね。ママだって、分かってくれているよ」 「そんなわけ、ない……。だって……」 「葵の中にいるのだから、二人が一番にママの存在を感じているよ」 それでも納得いかないといった表情する葵人に、腹の中の二人が蹴ってくる。 「痛……っ」 「ほら、愛しい子達もそうだよって、返事をしてくれている」 葵人の手に添えて、共に撫でる形となった手を見つめる。 碧人が優しく語りかけ、一緒に撫でてくれているから、毎日そうしてくれる人に反応しているからなのではと、思ったりもしたが、碧人の言う通り、自分が撫でたことによって反応してくれているのなら。 「……嬉しそうな顔をしているね」 「え……?」 添えられていた手を、今度は頬に添え、そう言われてきょとんとした表情をする。 「元々葵は優しいのだから、きっとこの子達に対しても慈しむような良いママになるよ」 「……こういう性格なのは、碧人さんのおかげだし、まだママ……である自覚はないし……」 ママと言うのは言い慣れていないのもあって、恥じらうような、自信なさげに答えた。 「大丈夫。僕がいるから」 沈むように下がっていた顔を上げると、春の日差しのように穏やかな笑みをして見つめてきた。 「何もかも初めてのことだから、不安はいっぱいあると思う。けどそれは、僕だって同じことだよ。それに、双子だから、葵一人で育てるのも難しいだろうし。だから、妊娠が発覚した時にも言ったと思うけど、妊娠中は慰めることしか出来ないけど、育てることは一緒に出来るから。一緒に頑張っていこう」 ね? と頬を撫でてくる碧人に、溢れんばかりに目を開いたが。 目から温かい雫が、ぽろり、ぽろりと零れ落ちていく。 嬉しい。 黒い感情が渦巻いていた胸の奥が、じんわりと暖かいものに溶かされていくのを感じる。 嬉しい……! 「う、うんっ……。ありがとう、碧人さん……っ!」 「どういたしまして」 碧人の方へ抱き寄せられ、そのまま慰めてくれる形となり、申し訳なくも、碧人のぬくもりを感じられ、嬉しさが溢れ、その意味でも涙を流していた。 それでも碧人は受け止めてくれ、落ち着くまで慰めてくれていたのであった。

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