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懐妊 12

「──葵。僕達の愛しの子達に、話しかけてくれた?」 牢の扉が開かれる音が聞こえた瞬間、我に返った葵人はバッと、そちらに顔を向けると、愛したかった人がそこに立っていた。 時間の感覚がなくなっていた葵人にとっては、永らく会ってないような気になり、嬉しさと寂しさで瞳を潤ませた。 「碧人さん……碧人さん……っ」 「この子達に、何を話し掛けていたの?」 「会いたかった……。抱きしめるだけでもいいの……優しくても、痛くてもいいから……っ」 「…………やっぱり、すぐには無理そうか……」 独り言のように言っていた碧人であったが、やはり葵人の耳には届いておらず、「ねぇ、抱きしめてよ。僕、すっごく寂しかったんだよ……」と座ったまま、自由ではないのに、両手を必死になって広げ、立ったまま何やら考え込んでいる様子の碧人に、訴えかけていた。 考えてないで、早く碧人のぬくもりが欲しい。自分にだけ目を向けて、想っていて欲しい。 だから、早く。 と、想いが通じたのか、そばに来た碧人が目の前に座ってきたのだ。 もう、手が届くほどの距離。今日は自分から触れてみようか、と碧人の顔に触れる。──が前に、顎を掴まれ、半ば強引に持ち上げられる。 やや強く掴んでくるせいか、顎の骨が悲鳴を上げているかのような痛みを覚え、思わず顔を顰め、その拍子に涙が零れた。 「……葵。自身のお腹にいる子達なのだから、きちんと母親らしく、愛情を注がないと駄目じゃないか」 「……っ、だ、だ、ってぇ、……ぼ、くに、は……っ!」 「だってじゃない。将来、桜屋敷家を継ぐ子達を産む責任を放棄するわけ……?」 「ち、ちが……う……」 「だったら、きちんとやって。僕が毎日しているみたいに、目の前でやってみせてよ」 「う……っ、」 顎から手が離れ、両手の縄が外され、「ほら」と手を掴まれ、腹部に添えられる。 その直後に胎動が手に直接伝わり、短い悲鳴を上げて、思わず手を引っ込めそうになったが、碧人に掴まれたままで、引くにも引けなかった。 「……やっぱり、無理……」 「話し掛ける内容はなんだっていいんだよ。今日も元気だね、とか、早く会いたい、とか」 「……僕は、そんなこと、望んでない……」 「だったら、この子達が蹴ってきた時、お腹を叩いてみて。それだけでも、コミュニケーションは取れるから」 「…………」

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