76 / 122
懐妊 11
「いや、だ……いやだ……」
どうして。そんなにも愛さないといけないの。
「葵がどんなに拒んでも、自分の子達を愛さないといけない。それが、桜屋敷家の次男に課せられた運命だから」
「でも、それでも、僕は……」
「愛そうとしないと、もう片方のピアスも取るから」
「やだ、やだ……っ」
「じゃあ、愛してね。自分の血を分けた子達を」
「……っ」
どんなお仕置きでも耐えてきた。どんどん快楽を身体に教え込まれるかのように、碧人の愛をこの身に受け止めてきた。
それなのに、今回のは、碧人の愛ではない、自分の愛を自身の腹の中に子達に向けろ、だなんて。
そんなお仕置き耐えられない。
「僕、これから忙しくなるから」
浴衣を直し、変わらない冷酷な声で告げる碧人に、「どうして……」と消え入りそうな声で言い返した。
「しばらくの間は、葵の所には来れなくなるかもしれないから。僕の分まで、しっかりその子達を愛するんだよ」
「僕、そんなお仕置き耐えられない……」
「お仕置きじゃない。親としての務めだ。わざとこの子達に手をかけるような真似をするなら、もう一生葵のことは愛さないからね」
「それは、やだっ……」
腹部を慈しむように撫でた碧人は、やはり葵人の言葉に耳を傾けることはなく、「代わりに、見張りの者を一人付けておくから。きちんと愛しているところを見せておいて」と去り際そう言って、座敷牢から、部屋から、立ち去っていった。
代わりに、こちらに無言で頭を下げる者が来たような気配がしたが、そちらには一切向けず、絶望と悲しみを含ませた感情で、自身の腹を見つめていた。
今まで嫉妬し、一切の愛情を向けてこなかった憎き子達を、今さらどうやって愛せばいいの。
碧人がしてきた愛情表現をしてみようにも、手は縛られたままで、触れることすらままならなかった。
じゃあ、声で?
とはいえ、何を掛ければいいのかと、碧人が言っていたことをどうにか思い出して、いざ声を出そうにも、喉が何かを詰まらせたかのように、なかなか出せずにいた。
掛ける言葉なんて、何もない。
自分が言葉にしたい人は、碧人しかいなくて。自分にだけ優しく笑いかけ、葵人の言葉を、一言一句聞き逃さずにきちんと聞いてくれ、どんなことも答えてくれる。
それに比べて、この腹の中にいる子達は、葵人が声を掛けたとしても、何をしてくれるのか。ただ蹴ってくるだけで、しかも、その蹴りが腹を蹴破るぐらいの勢いでしてくるものだから、ただただ不愉快だった。
ほら、やっぱり嫌になるだけだ。これで、どう母親としての務めを果たせというのか。
葵人の頭の中は、一途に愛したい人への想いがいっぱいで、腹の子達に何かも声を掛けることはなかった。
ともだちにシェアしよう!