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エピローグ 1

──薄暗い長い廊下を、しっかりとした足取りで歩く者がいた。 その者の手には、空を彷彿させる水色の一輪挿しに、一本の桜が挿してあった。 その桜は誇らしげに咲いており、二輪程度あっても、目を楽しませてくれた。 それを持っている者は、小さく鼻歌を歌いながら奥へと進む。 すると、十四畳程度の広さのある檻が目の前に広がる。 唯一の明かりの窓からは、桜の花びらがひらひらと、優雅に舞う乙女のように、檻の中へと舞い落ちる。 そうして。その中央に梁に結びつけていた縄に繋がれた、一瞬、女性と思わせる人物が、桜柄が刺繍された青色の着物を身に纏い、膝立ちの状態で静かに眠っていた。 その姿を見た檻の外にいた者は、意味深に笑みを深め、耳障りな音を立てながら扉を潜った。 それでも、檻の中にいる者は何も反応を示さず、眠り続けていた。 その眠っている者に近づいた入ってきた者は、その光に照らされた白い頬に触れる。 「今日もいい子にしてた?」 目を細め、優しく撫でるが、瞼は開く気配はない。 そのことに気にすることなく、一人語る。 「今日は何の日か、もちろん憶えているよね? ──誕生日おめでとう、愛しき僕だけの葵」 慈しみを含んだ表情し、撫でていた頬に口付けを落とす。 僅かに開いた口からも、何も発しない。 「今年も同い歳になれる時期がやってきたね。葵にとっては不服かな。ふふ。そんな葵に素敵な物をあげる。見て、今年も庭にある桜が綺麗に咲いたよ。葵と同じくらい綺麗だ」 葵人に見せるように顔に近づけたが、当の本人は瞼すら一向に開く様子はない。 「でもね、この枝、新と真に折られてしまった可哀想な枝なんだよ」 「…………」 「あの子達、何を思ってか、桜の木を伝って、あの塀の外へ乗り越えようとしたみたいなんだ。一度も外に出たことのない子達だから、好奇心に駆られてなのかもしれないね。名前の通り、今までになかった新しいことへ追究し、それが正しいと進んで欲しいと、まるで代々してきたことを裏切るような、そんな願いを込めた子達だもの。そうするのも必然なのかもね」 ふふ、ふふと、楽しそうに笑いながら、一輪挿しを葵人の足元に置き、再び葵人と向かい合った時、人差し指を葵人の顎に当てる。

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