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第506話「ウタくンとキリ先輩。」終
霧緒はアホ顔になった俺の前髪を笑いながらぐしゃぐしゃと雑に撫でてきた。
「詩が晴れて大学生になったら同棲していいって許可貰ってる」
「な、何それっ!誰から貰ってんの!?」
「詩の姉ちゃんたち」
「え!!」
「まぁ、夏休みにちょろっと言ってみたら詩の大学進学を条件にならーみたいな?だから勉強頑張れ」
マジ!?や!ヤバい!超嬉しい!!
霧緒と一緒に住めるの!?二人暮らし!?
そんな約束をあの姉たちからもぎ取っていたなんて!流石霧緒だ!
大学生になったら毎日一緒にいられるじゃん!一緒にご飯食べてお風呂入って一緒に寝られる!
「アパートはここから余り離れない場所で探そうと思ってる。椿の家とか俺の家にすぐ行ける方が良いだろ?」
「う、うん!良い!全然良い!俺受験頑張る!超頑張るっ!」
「勉強は俺が見るから。いないときは汐里に見てもらえ。頼んであるから。あいつああ見えて頭悪くないし」
「へー!え、汐里さん?汐里さんってどこ大?」
「……○大」
「○大って霧緒の第一志望だった大学!」
汐里さん!カッコいいしただ者ではないと思っていたけど、やっぱり高学歴者だった!
海外の大学にも行ってたらしいから凄い!
霧緒に汐里さんにも勉強を見て貰えたらそれはそれは心強い!って思いながら、ふとしたじわじわ疑問が湧いてくる。
「そ、だからこき使って構わないぞ」
「……う、うん有難いよ。……有難いって思うけど……あの、ちょっと……聞いていい?」
「ん?」
「何か、もしかして?姉ちゃんから条件とか……があったりする?」
「条件?」
「う、うん……えーと例えば、志望校とか」
「あぁ、……○大か、△大の二択」
「!!!!」
っ!!!!!!!
ひぃいいいいいいいい!!!
こら!笑ってんじゃねぇ!!!!
「それ汐里さんの大学か霧緒の大学じゃん!!無理に決まってんじゃん!!」
「無理な訳ないだろ。○大は無視してもらっていい。△大なら余裕だって。もう少し早めに伝えようと思ってたけど色々あって遅れた。ま、今の詩の成績なら……はは……どうにか行けるだろ」
な!
俺の顎を指先で撫でてくる霧緒は笑っているようで目は笑ってない。
怖い……マジだ……怖い。○大も△大も有名大学でどちらも人気校だ。俺の成績じゃ無理な無理校だ。
ハッキリ言って何考えてるんだこいつはって思う。つか姉ちゃんそんな条件出してんじゃねーよ!
二人で一階に降りて来て、居間のストーブを付け、冷えたキッチンで朝ごはんの支度をはじめた。
お湯を沸かしてインスタント珈琲で温かな珈琲とカフェオレを作り、それを飲みながら卵を割ったり野菜を茹でたり切ったりする。
「あ、殻入った」
「箸でとって~」
「…………無理」
「無理じゃなーい。できる、やればできる」
「………………取れた」
「おー!よしよし!偉いぞ~!んひゃ!」
味噌汁に入れるなめこを軽く洗ってたら後ろから尻を揉まれた。
しかも尻の割れ目に指先を入れてくるからやらしい。
……まだ敏感になっている箇所だから変な感じがしてしまう。
「……詩」
「な、なんだよ」
後ろからやんわり抱き締めてられて、頭にキスされる感覚が伝わってくる。
俺の手にはザルに入ったなめこがお味噌汁になるべく待機中だ。
だけど後ろから伝わるぬくもりは心地好くて気持ちがいい。
はわわ……こういうの良いなぁ。
霧緒と毎日いれたらいいよなぁ。朝ごはん……毎日作ってあげたいなぁ。
だけどだけど……正直言って自信ない。受験自信ない。
「観念しろ」
「観念……ですか……」
「そ」
「…………う、うう…………無理……じゃないですかその志望校無理じゃないですか」
「無理じゃない。できる。やればできる」
「う、うう…………」
「よしよし。大丈夫。この俺が見てやるから。もっと自信持て?手取り足取りだぜ?」
「絶対スパルタ~~~~!!イギリス行ってよし!!」
「その時はリモートで頑張ろうぜ」
ぜ、絶対スパルタだ!
俺は知ってる知ってる!それはもう悪魔のような地獄の試験勉強をさせるに違いない!
ミスすると俺のことをまるで可哀想だと言わんばかりに不憫な眼差しで見つめてくるんだ!
だけど、だけど!!!
俺は、
そんな君に惚れたんだ。
過激に厳しいけど、ちゃんと先のことを未来のことを考えて動いていてくれてる。
俺は正直やりたくないとか絶対無理とか思ってしまうんだけど、可能性がちょっとでもあるならそれにしがみつきたい。
欲しい未来を掴みとりたいって思う。
「…………か、加減……手加減して下さい。優しく!よろしくお願いします」
「優しいだけじゃ物足りないくせに」
「そ!そういうの!耳元で囁かない!はいはい!ご飯の続きするから!あ!でも合格したらまたキリ先輩って呼べるね!」
「……ん、はは。そうだな」
「そう思うと頑張れる気がする」
「大丈夫。俺が絶対合格させるから」
「……スゲー自信」
「当たり前」
「ははっ」
そんな会話をしながら二人で朝ごはんの支度をする。
何でもないようなことがとても楽しいし幸せだなって思う。
こんな楽しい時間がこの先もずっと続いたら最高だ。
もっと勉強して色々経験して大人になりたい。
俺は霧緒にはなれないけど、霧緒を支えてあげられるような人間になりたいって改めて思った。
なれるかな。
なれるかなぁ~
なれますように。
まだまだ未熟な俺だけど、できることは限られてるけど、目の前のご飯なら作れる。
とりあえず今は美味しいなめこのお味噌汁を朝食を全力で作ろう。
できたらばあちゃん呼んで、霧緒と三人で朝ごはんを食べよう。
きっと、
きっと大丈夫。
だって霧緒と離れていたこの数ヶ月で俺は成長したって実感できたから。
苦しくて辛い時もあったけど、周囲に心配もさせちゃったけど、前よりも少し周りのことが見えるようになった気がする。
ちょっとだけ大人になったかなぁなんて。
それに逃げて諦めるには勿体ないくらいのご馳走が用意されているなら、俺も貪欲にならないと!
だって!
俺はっ!
霧緒と一緒に住みたいっ!
同棲したいっ!!
完全に不純な動機だけど、ラブラブな生活を手に入れたい!
手に入れたいぞ~~~!!!
おーー!!!
だから!だから皆!
良かったら俺が無事に志望校合格できるように応援してくれたら嬉しい!
俺頑張るね!
マジで頑張るね!!
あ、ウタくンはもう終わりだよ!終るよ!
えっと、ここまで俺の話を、俺と霧緒の話を読んで下さってありがとうございます。
つたない文章ではじめたお話ですが「面白い」「楽しい」「詩くん可愛い」と言って下さった読者様に支えられてここまで書くことができました。当初は初エッチで終わる予定だったんだよ~(笑)
まさか霧緒が大学生になって留学しちゃうとか、俺がバイトはじめちゃうとか予定になかったし(笑)そしてこのままいけば、俺は大学生になって、カッコいい彼ぴっぴと憧れの同棲生活をゲットしているかもしれない!!(ヨダレ)
あわわ……マジ最高……これは本当やるしかないよね!
さて、「ウタくンとキリ先輩。」はこれにておしまいになります。
(ぐす)
読者様には、最後までお付き合いくださいまして感謝しかないです。
(ぐすぐす)
皆をっ!全員抱きしめたい気持ち!
本当に本当ありがとうございました!
(ぐすんぐすん)
またどこかでお会いできたら嬉しいです!
ありがとう!
ありがとうっ!!!
お元気で!!!
まったね~~~~~~!!!!
ウタくンとキリ先輩。
おしまい
白睦
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